新・第三次性徴世界シリーズ・10
『着せ替え人形同好会』の巻・後編
笛地静恵
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2・マリ
 中学校三年生のおれは、同級のダチ公二人と、バンドを組んでいる。二十世紀の伝説の
ロック・バンドだった、キング・クリムゾンのコピーをしている。もっとも、ジョン・ウ
エットン御大が、ヴォーカルを務めていた中期に限る。メタルのソリッドさを持った、壮
大な音響の城塞だった。男性的な音だと思っていた。アムステルダムでのライヴは、おれ
の永遠の理想像だった。
 ベースとヴァーカルの、おれチキン・ヘッド上戸(うえと)。ギターとシンセのスキン・
ヘッド振部(ふりべ)。それにパーカッションで、ストレートに腰まで伸ばした長髪を後頭
部で紐で結んだ、自然派の黒須(くろす)。彼の愛聴盤は、レッド・ツェッペリンだった。
そこからしてずれている。
 正月の貸しスタジオで、三人で初演奏をしてきた。「The Great Deceiver」と「The Night 
Watch」の二曲をさらった。黒須のドラ ムはやや弱い。重厚さ と繊細さが、分離し てい
るのだ。その両面が欲しいのに。それでも今日は、めずらしく弾けていた方だろうか。
 振部とおれは黒須に秘密で、ドラムの増強を考えていた。もっと良いプレーヤーが見つ
かれば、彼には止めてもらうつもりだった。止むを得ない。残りの二人との力量の差があ
りすぎる。
 重い気分だった。黒須は友人としては百点の仲間だった。ミュージシャンとして五十点
であるというのに過ぎないのだ。このままノイエ・シブヤにでも繰り出して、女の子をナ
ンパしようかと相談していた。3Pのトリオならば、第三次性徴で巨大化した女でも、一
人は充分に相手ができることが、経験から分かっていた。それなりに楽しかった。ホテル
代も割勘にできた。
 最近はやりのカンガルーになって、街を女の胸の高さの視点で闊歩するのも、面白かろ
うと思ったのだ。目の前には、つぎつぎと、西瓜のように大きな丸い巨乳が現われては、
通り過ぎるだろう。
 美少年で甘いマスクの黒須が、年末に通りすがりのOL風の女に、持ち上げられてしま
った。いきなり灰色のビジネススーツの胸元に詰め込まれたと、白状した。
 カンガルー遊びを、初体験したことがあるのだった。なんという羨ましい奴だろうか。
「ぼく、お姉さんと、いいことしない?」
 そう言われたという。ネオ・シブヤのクジラ料理屋の前だった。
 黒須の詳しい説明によれば、ブラの前は赤ちゃん専用の、前抱き用のベルトのようなも
のに加工されているらしい。男性の身体を、簡単にホックで固定できるようになっている
のだという。安全な運搬方法は、確保されているのだ。あの上空からの落下は、男には恐
ろしかった。不意の転落の心配は、まったくないようだった。壮観だったという話だ。
 『リスベート』という瀟洒なホテルに連れ込まれそうになったが、満室のために諦めて
くれたので、九死に一生を得たという。やばかったのだ。
 振部とおれは、それだけで興奮していた。おれは鼻血を流していた。ジーンズの前を、
もっこりとさせていた。振部は、スキンヘッドを指先で掻き毟っていた。女が欲しくてた
まらずに、欲求不満になっている時の癖である。よく血が出ないものだ。ロンドン・ブー
ツの踵を、正月なのにゴミで汚れているコンクリートの汚らしい舗道に、ガツガツと打ち
付けていた。
 おれも自分の、赤い鶏冠のような髪の形を神経質に指で直していた。なかなか理想の立
ち方にならないのだ。
 そんな時に駅前で、中学一年生の後輩のマリに出会った。正月の六日で、風の冷たい日
だった。厚いダウン・ジャケットを着込んでいるおれたちに対して、マリはセーラー服の
上に、薄い毛糸のセーターを羽織っただけの軽装だった。女どもの耐寒性能には、まった
くまいってしまう。
 女の真似をしては、悪性のインフルエンザにかかるのがオチだった。奴らは化物だった。
今年の風邪は、喉と腸に来るという。十二月には、一週間の長い風邪をひいた。声帯の丈
夫なおれとしては珍しく、二日間は、ほとんど声がでなくなってしまった。バンドのヴォ
ーカルとしては苦しかった。
 南極基地の隊員も、全員が女性に交替させられた時代だった。男のダテの薄着ぐらいで
は、対抗できない。第三次性徴で、皮膚の下に厚い脂肪の層を成長させているからなのだ
ろう。降参していた。
 マリは、第三次性徴期の少女たちの中では、ほっそりとしている。身体の線が、くっき
りと見えたシルエットだった。セーラー服が似合う女だった。清純な美少女のイメージが
あるのだった。おれならば、ミス天女中学は、こいつに投票するだろう。
 顔は知っていた。おれたちのライヴを良く見にきてくれていたから。自主製作のインデ
ィーズのディスクに、サインをしてやったこともある。
「大海瑛子さんの、家に行きませんか?」
 マリが、最初は、そう誘ったのだ。部活の先輩に、これから新年の挨拶に行くのだとい
う。彼女たちは、夏のビキニの水着の鮮烈な印象から水泳部だと思っていたが、冬はトレ
ーニングのために陸上競技部に所属しているのだという話だった。
 大海瑛子というのは、天女中学校の中学二年生を代表する美人だった。しかし、ガード
が固いという評判だった。なんでも、兄貴ひとすじの変態で、他の男には目もくれないと
いう。彼女だけなら、OKしなかっただろう。
 マリの薄い短いスカートの中に、駅前の強いビル風が吹き込んでいた。男の身体が、ぐ
らりと揺らぐような強さだった。スカートを外側にふわりと花びらのように巻き上げてい
た。
「キャッ!」
 あわててスカートの前を押さえていた。こいつにも恥じらいがあるのだった。黄色い枯
葉が彼女の足元で、くるくると独楽のように回転していた。足元から見上げているおれた
ちには、すべてが目撃できた。ネコのイラストのついたパンティが、剥出しになっていた。
おれは、マリのようなロリコン女には、原則的には興味がなかった方なのだ。女は肉の充
実がなければ女ではない。それがポリシーだった。
 しかし、メグもいるという。それなら話が違う。瑛子ほどではないが、巨乳だった。成
熟した身体の持ち主だった。切れ長の、男を誘うような色気のある瞳をしていた。唇は、
ぽっちゃりと厚かった。あれで、フェラティオをされたらたまらないだろう。なによりも
メグは、マリと同じ十三歳だったが、天女中学校一年生の「新人巨乳美人ナンバー1」の
女だった。去年は、大海瑛子が勝ちとった栄冠だった。男たちの内輪の秘密投票では、メ
グの胸は、『もっともバスト・ファックしたいオッパイ』、ということになっていた。セー
ラー服だとそんなに目立たない。腰も薄かった。尻も瑛子と比較すれば、小さいだろう。
 しかし、ビキニの水着になると凄いのだ。夏の水泳大会で黒いビキニで、力泳した後の
表彰台上の彼女の姿を盗撮した立体写真四枚組は、いまでも高額で取引されていた。永遠
のベッドのオカズだった。胸元で、左右に二つに別れている。黒い果実のように実った乳
房の量感。熟れる直前の甘たるい芳香を放っていた。蜜がしたたるようだった。年をとる
と垂れるだろう。今が旬だったのだ。あのバストを食べたかった。男を引き寄せる性フェ
ロモンを、濃厚に放っていた。
 おれたちは、マリの誘いに乗ることにした。下級生の小さな(男の三倍体の女子高生と
比較すれば、二倍体の中学生の女なんてガキだった。どうにでもなった。)中学生の小便臭
い女と正月を過ごすのも、気分転換になるかもしれない。
 マリは、携帯電話をメグにかけているようだった。
 大海瑛子の超高層の高級マンションの室内は、猛烈に女臭かった。夏の日の教室のよう
に、むっとしていた。窓からは、冬の日差しが燦々と差し込んでいた。天然の温室になっ
ていた。青い海が遠望できた。それだけではない。誤魔化しようのない、あそこの香もし
た。女二人で、いまの今まで、楽しんでいやがったのだろう。気にしてはいるのだろう。
白檀のお香を薫いていた。
 だが、あの雌の臭いは生物の雄として、精液の臭いがそうであるように、空気中に極微
量であっても、気が付かずには、済まないものなのだ。ガキでロリ娘のマリを、安全牌の
餌として寒天の駅前で歩かせて、本体の女将軍どもは、陣地でいい夢を見ていたのだ。お
れは、こういう差別が大嫌いだった。
 しかし、広い豪勢なリヴィング・ルームでの冷たいアルコールのサービスと、ポール・
サイモンのアフリカン・ドラムの共演は、思わぬ振る舞いだった。おれのリクエストに応
えて、『Lament』が即座にかかったのには参った。瑛子は良い趣味をしている。酒も、ビー
ル、日本酒、ワインなどなどが揃っていた。まずビールで乾杯した。例によって男は1リ
ットルの、女性陣は10リットルのグラスだった。
 しかし、いい気分で瑛子の個室に案内されてぎょっとした。ベッドの上という床といい、
服や下着が所狭しと、並べられていたからだ。
 しまった!
 こいつら、あの悪名高い『着せ替え人形同好会』だったのだ。マリの虫も殺さぬ、ロリ
顔にだまされたのだ。逃げようとしたが、退路を断たれていた。ドアに、メグが両手をく
びれたウエストに当てて、長い両脚を開いて、仁王立ちになっていた。ゲームならば、ど
ろぼうの宿屋にとまった、旅の剣士のようなものだろうか。身ぐるみ剥がれることになっ
てしまった。
「男子の力で、女子の力に勝てると思っているのかしら?」
 メグは、必死に反撃するおれの抵抗を、ものともしなかった。万力のような力で手首を
捕まれていた。よくコンビニで母親がむずがる子供にしている光景だ。あの屈辱の態勢だ
った。宙吊りにされていた。おれの足は、床から一メートルの高度で、ばたばたしていた。
上下のビキニのような紅白の下着から剥出しの腹部にキックを連打した。全力を出してい
た。おれのサッカーの試合での、フリーキックは、敵のゴール・キーパーの腹部を直撃し
た。悶絶されたことがあるのだ。しかし、メグは平然としていた。六つに割れた腹筋に、
別にそんなに力を入れているのでもないのに、鋼鉄の板を蹴っているようなものだった。
せめて、ふざけたへそピアスの人形を飛ばしたかったが、それも皮膚のゴムのように強靭
な耐久性を破れなかった。
 逆に、メグに脅迫されてしまった。
「先輩、へんに歯向かうと、手足の骨を折るかもしれなくてよ。楽器ができなくなっても、
いんんですカア〜?」
 手首の骨が握り潰されそうに、不気味に軋んでいた。降参せざるを得なかった。恐怖の
脱衣が始まった。
 おれの方に黒須のワイシャツのボタンが、ピーンと空中を飛んできた。スキンヘッドの
頭に、こんとぶつかっていた。
「あれれ、ボタンが、どっかいっちゃったよ」
 マリが焦っていた。
「ん、もう、マリ!人形サンを、少しは、ていねいに扱ってあげなさいね。今夜の主賓は、
人形さんなんだから!」
 メグが偉そうに注意していた。こいつだって、相当に手荒に、おれの皮のジャンバーを
脱がしていたくせにだ。糸が切れる、プチプチという音がどこかでしていた。
「ゴメンナサイ!」
「黒須君、ごめん。後で、ぼくが付けてあげるわ」
 瑛子が仲裁に入っていた。彼女は誇り高きスキンヘッド振部のパンツを、お尻から下ろ
している所だった。剥き卵のように、つるんとした白い尻が生々しかった。
「なんだよてめえ!ブラコン野郎の癖に!」
 股間を両手で押さえて、凄んでいた。瑛子にそれを言ってはいけないのだ。ぱーん。即
座に物が破裂したような爽快な音がした。瑛子の目にも止まらぬ、平手打ちだった。暴れ
る振部の尻を、猛激していた。あの鉄壁のゴールキーパー振部が、女の下着で一杯の床に
もんどり打って、吹っ飛ばされていた。
「もう、いい子にしなさいよね!」
 瑛子は、ほんの軽く手を振ったようにしか見えなかったのに。振部は顔面を強打して、
鼻血を流していた。
 黒須も、びびったようだった。
「ハイ」
 彼は、素直にマリに謝罪していた。こいつは、キレルと危なくて、ナイフを振り回すよ
うな凶情持ちだったのだが。
「素直でよろしい」
 マリですらも調子に乗って、上級生の黒須をガキあつかいしていた。最後まで、無謀に
もマリの力に抵抗していた黒須のワイシャツは、その時には、びりびりに引き裂かれてい
た。もう雑巾ぐらいにしかならないだろう。
 第三次性徴期に入った女たちの力の前には、天女中学校指定の、柔な男性用のワイシャ
ツなど濡れたティッシュのようなものだった。
 というわけで、おれたち三人は、パンツ一丁のはだかに、ひんむかれていた。瑛子の白
いカヴァーをかけた、男性用の家一軒分の容積はある、ベッドの前の床に正座させられて
いた。
 三人の巨大女子中学生たちは、瑛子の巨大なベッドに並んで腰を下ろしていた。思い思
いの姿勢だった。瑛子はピンクのタンクトップと、カットソーのジーンズ。メグはへそピ
アス付きの、下着姿。マリは、秋冬用の紺のセーラー服のままだった。ルーズソックスの
脚が、丸太のように太く二本ずしんと大股びらきの状態で、おれの眼前にあった。王宮へ
の城門の左右の柱のような威容を見せていた。しかし、その下には、スーパービキニの刺
激的な下着を付けているのが分かった。内部から、男という蝶を誘う、とろりとした甘い
蜜のフェロモンを、濃厚に漂わせていた。意図的に淫らなポーズを取っていた。おれたち
の視線は、彼女たちのスカートの中を覗くのに、ちょうど良い高さになっていた。
  『着せ替え人形同好会』の変態女どもは 、これから人形にする男の選定にかかってい
た。
 マリが、着せ替え人形に選んだのは、意外にもおれチキン・ヘッド上戸だった。男をハ
ントしてきたものの特権で、最初に選ぶ権利が与えられていた。黒須だと思っていたので
予想外だった。瑛子もそうだったようで、「ほんとうにいいのね?」念を押していた。
 マリが自分のadolfの紺のスポーツバッグの中から、おれのために用意したのは、
小学校五年生の時のピアノの発表会に着たというドレスだった。スカーレットのビロード
だった。白いレースのフリルが、可愛らしかった。白いソックスに、スカーレットの靴ま
でついていた。靴は、おれにはすこしだけぶかぶかだった。ティッシュを前に数枚詰めて、
サイズを調節した。下着まで、ドレスと同色のスカーレットの、パンティに着替えさせら
れた。もう育ちすぎた女子中学生達への抵抗は一度は、諦めていたのだ。
 おれは、服を見て仰天した。そんなのは、絶対に嫌だとむずがって暴れたのだ。幼児が、
母親に反抗するようなものだった。たっぷり五分間というもの、マリのセーラー服のプリ
ーツスカートの、少女の温気のこもったスカートの中の太股にはさまれていた。内腿の素
肌の間に「サンドイッチ」にされていた。酸素が不足してきた。窒息寸前までいった。そ
れで降参した。
「なんだ、もうあきらめちゃうの。これから、ルーズソックスに突っ込んで、上戸先輩を
ぐるぐると振り回して、遊ぼうと思っていたんですよ」
 そう虫も殺さぬような可愛い笑顔で言われた。
 マリは、おれの前に小さなパンティの両足の穴を、その四本の指で左右に広げるように
していた。おれは、穴に従順に足を入れていった。忠実に支持に従っていた。ゴムはけっ
こうきつかった。パンティの生地は、おれのペニスを下腹に磔にしていた。
 発表会用の高級な深紅のドレスは、赤い髪のおれには、けっこう似合っていたかもしれ
ない。頬に紅と唇にルージュを塗ってもらうだけで、自分の気分が、少女という聖域に接
近していくのが分かった。危険な魅力だった。鏡の中の自分に、うっとりとしていた。白
雪姫の魔法使いの継母が、世界で一番美しい少女の名前を鏡に尋ねれば、おれの名前を答
えるのではないか。そんな気がしていた。
 女たちもおれの妖艶な美貌には、ため息をついていた。もう戻れない少女の季節が、先
輩の男子生徒によって再現されていることに、嫉妬しているのだろう。いい気味だった。
 他の二人の着替えを待つ間に、おれは調子に乗って、瑛子の部屋にあった昔の子供用の
シンセサイザーで、キング・クリムゾンの『Epitagh(墓碑銘)』を即興演奏をして
やっていた。編曲しての弾き語りである。当然、子供の玩具だから、鍵盤は男性の手にも
合うサイズだった。〈混乱が、おれの時代の墓碑銘になることだろう〉。第三次性徴世界の
今にも、ぴったりと当てはまる文句のように思われるのだが、どうだろうか?
 黒須人形の完成は、おれたち三人の中でも、一番最後になってしまった。小柄で痩せ男
だった。おれたちと比較しても、頭ひとつ分は小さい。それが劣等感になっていた。「チビ!」
と他の男に嘲られると、烈火のように怒って暴れた。ナイフで、相手を刺して重傷を負わ
せ、三ヵ月の停学をくらったのは、一年生の時だった。
 その黒須が、メグに子供のように叱られていた。
「ええっ、黒須君には、これでも大きいの?あたしの小学校三年生の服なのに。これより
小さいのは、持ってきてないよ!チビねえ!!」
 黒須の目が座っていた。今度も、見兼ねて瑛子が仲裁に入ってくれた。
「それじゃ、黒須君人形は、ぼくに貸してくれないかなあ?」
 おれは安堵していた。黒須の緊張が、限界に達しているのが長年の友人として分かった
からだ。瑛子が手を延ばして来た。黒須は、脇の下にその手を入れられていた。まるで体
重がないものであるかのように、上空に拉致されていった。振部と交換させられていた。
体重的には、犬猫並みの簡単な扱いだった。
 黒須は、たったいままで瑛子が履いていた、水色のパンティを履かされていた。つまり、
一方の瑛子は、下半身が完全に無防備な状態になっていた。上のピンクのタンクトップに
包まれた胸の量感が、床から見上げていると、圧巻だった。「i love nothin
g!」というデザインも良かった。
 こいつは、日本の誇る天才科学者である兄貴以外には、誰も愛せない女という評判だっ
た。正月のニュースでも、兄貴の顔が報道されていた。おれたちの中学校の、大先輩でも
ある人だった。床のシンセサイザーの前に座るおれの視点からは乳房の山に隠れて、彼女
の端正な顔さえ見えなくなってしまっていた。
 しかし、そのパンティは、明らかに大きすぎた。瑛子の判断は、敏捷で的確だった。パ
ンティをベッドの上に平らに敷いた。黒須を寝かせた。前の部分で彼の無毛で無防備な股
間を隠した。オシメのようにして、左右の分を腰に巻いていた。長い手を、おれの頭上で
クレーンのように、机の方に伸ばした。上空にかかった肌色の橋のようだった。瑛子は、
安全ピンで前の部分を器用に取り付けていた。王女さま付きの奴隷の、水色のシルクの腰
布というところだろうか。千夜一夜物語の登場人物になったようだった。
 普段は、笑うことなどなにもないというように、不機嫌に苦みばしった黒須の表情が、
うっとりとしたにやけた顔に、変化していた。もともと甘い顔立ちなので、笑うと砂糖菓
子のように崩れてしまう。パンティには、さっきまでの瑛子のぬくもりと、湿り気も残さ
れていた。新陳代謝の活発な彼女は、オリモノも多かったのだ。それらに、黒須の発毛が
まだの未成熟な器官が、暖かく包まれていた。
「お漏らしをして汚したら、許しませんからね!」
 瑛子の言葉は厳しいが、顔は笑っていた。きれいな白い歯が見えた。黒須も、お追従の
笑いを顔に浮かべていた。幸福そうだった。正視できなかった。おれも、同じような顔を
しているのだろうが
 振部はメグによって、小学校の体操服に着替えさせらていた。体操服の胸元には、校章
とメグの名前がひらがなで「はるみ」と書かれたネームプレートが貼ってある。その文字
も何回も洗濯されて薄れていた。五年三組と書かれてあった。
「あたしの小学校五年生の時の体操服だよ」
 メグは懐かしそうにいった。
「この年の、運動会のリレーのアンカーになって、クラスを優勝に導いたんだ。男子三人
を、牛蒡抜きにしたんだよ」
 振部は、ワインレッドのブルマーを履かされていた。女は小学生でも女で、お尻は男よ
りも大きいのだ。ぴったりと女子の尻の肉に張りついていたはずのナイロンに、皺がよっ
てだぶついていた。体操服の胸には、二つの膨らみが発生していた。ブラジャーを付けら
れているのだ。パット入りだった。
「小学生のころのあたしは……、みんな信じられないかもしれないけど、胸がなくてね…
…、上げ底で、なんとかごまかしていたんだ……」
 メグが告白していた。知らなかった。「ミス巨乳」の驚くべき少女時代だった。
 スキンヘッドには、紅白の帽子がかぶせられていた。小学生の下手な字で「はるみ」と
ひらがなで名前が書かれていた。自慢の革のロンドン・ブーツは脱がされていた。素足に
生えた、むさ苦しい黒い脛毛を剥出しにしていた。振部は、三人の中では一番珍妙な見せ
物だったかもしれない。おれも黒須も笑いを堪えることが出来なかった。女たちは爆笑し
ていた。大声に、おれたちの鼓膜がジーンとしびれたぐらいだった。ロックのコンサート
の大音量に慣れているはずのおれたちの耳を、これほどに襲撃するのだから、女たちの肉
体の実力は途方も無いものだった。
 そのかっこうで、おれたちは長いこと、巨大な女たちの胸に代わる代わる抱かれたり、
膝の上に乗せられてあやされたり、全身をくすぐられて、からかわれたりしていた。三人
の間をたらいまわしにされていた。震える黒須をくつろがせるために、メグがその乳首を
銜えさせていたのには、感動してしまった。気が強いだけの狐女にも、優しい側面がある
のだった。
 たっぷりと三時間が経過していた。窓の外に夕闇が忍び寄っていた。空は、凄いような
寒気を示す白い色に、水平線まで透明に広がっていた。海は灰色の鋼鉄のような色に変化
していた。女どもは、人形との愛玩にも飽きてきたようだった。人形の着せ替えの時間に
なった。再び全裸にされた。ストリップ・ショーの始まりだった。
 おれたちは、『フラワー』だけを着用させられている。ヌードにされていた。折紙大の小
さな紙を二つに折る。折った方の中央に直径二センチ程度の円い穴を開ける。残りは、花
びらの形になるように切り落とす。花ができる。この穴からペニスをにょきりと出すと、
観賞用の『フラワー』の出来上がりだった。おれが青色。黒須が黄色。振部が赤色。なん
のことはない。信号機に見立てるギャグだった。
 おれのが太く短く、振部のは長く細かった。黒須は最悪で、細く短いという評価だった。
いわゆる短小だった。
「ちいちゃあ〜い!」
 笑われていた。
「黒須くんて、包茎だったんだ」
 こいつが、いわゆる皮かむりであるということも、今回初めて知った。
 かわいいという評判だった。
「芋虫みたい」
 オシベの品評会をさせられた。植物の構造からすると、メシベではないだろうか。理科
の時間に習わなかったのか。こんなところをいい加減にするのも、こいつらがバカな証拠
だった。
「オナニーするところを、見せるのよ!」
 瑛子が厳しい表情で命令していた。上半身にピンクのタンクトップを付けただけの姿な
のに、女神のような威厳と迫力があった。逆三角形の面積の広大な陰毛も、黒光りする王
家の紋章のようだった。その瞳で見下ろされていると、身体がすくむような気がした。
「おかずは、提供してあげるわね」
 メグは自分の乳房を、持ち上げていた。
「たっぷりと召し上がれ」 
 マリも瑛子も、生まれたばかりの美しいヌードになっていた。正月早々、眼福だった。
特にマリは、地上に舞い降りた天使のように清純だった。振部と黒須に見せるのが、惜し
いような気がした。自分だけで独占したかった。
 女たちの前で、両手で扱き立てた。立てるのは簡単だった。これだけオカズを目の前に
並べられていれば、欲情はいつでもできた。据え膳食わぬは男の恥だった。おれは、マリ
の熱い濡れたような瞳だけを、食いいるように見つめていた。彼女は、おれの手の動きに
合わせて、自分の下半身の割れ目に指をあてがっていた。瑛子は、メグの唇にロック・オ
ンしていた。いつまでも外れなかった。凄い肺活量だった。たがいの全身を愛撫していっ
た。興奮する光景だった。おれと振部が初花の花粉を振り撒くのに、そんなに時間はかか
らなかった。
 やけになっていた。ポールサイモンの「Still Crazy For You」に合わせて 踊ってやっ た。
妖艶な舞いだったことだろう。
 しかし、黒須だけは、時間がかかった。緊張しているのだろう。必死に擦っている。で
も、勃起できないのだ。赤剥けになるぐらいだった。おれは、目を瞑って集中するように
と囁いた。
「ぼくは、下手ねえ。お姉さんが、手を貸してあげるわ」
 見兼ねたメグが、黒須のペニスを、三本の指の間に摘んで根元から、先端に向かってゆ
っくりと擦るようにしていった。何度も。何度も。シルクのようなタッチだった。黒須の
目付きがおかしくなっていた。感じているのだろう。とうとう初期の目的は達したようだ
った。
 また、なんだか、おれまでが安堵していた。涙が出るほど、嬉しかった。なぜなのだろ
うか。男には、当然の生理的反応に過ぎないのに。おれは二発目のロケットの発射に、成
功していた。マリの足の脛を狙っていたのだが、そこまで届かなかった。残念。おれがい
くのと同時に、彼女も達したのが分かっていたけれども。
「たまっているものは、全部、出しちゃってね!」
「あたしたちの大事な下着を、男の汚い液で汚されたら大変ですものね」 
「さっぱりとして帰ってね。協力はするわ」
「中学生の男子と言えば、頭の中は女のことしかないのよね」
 その通り。それが普通だった。
「写生大会があると言われれば。うふふふ。射精大会を連想するんでしょ?」
「体育のマス・ゲームという言葉だけで、男子って顔を赤らめたりするんですものね。ウ
ブよねえ〜」
「そんなに、ひどくは、ないと思うんだけどなあ」
 振部が、言い訳をしていた。おれは、そうだ。別に訂正する必要などないと思う。社会
科の歴史の時間の「世紀」の変わり目に、「性器」の変わり目を連想していた。  
 大射精大会となってしまった。罌粟の香が、空気中に満ちていた。女の甘い体臭も、圧
倒するようになっていった。犬がマーキングで満足するように、この広大な空間が、自分
たちの領土になったような気分だった。
 その後で、先程のカップルが交替で風呂に入った。男子ならば、五六人は入れる集団浴
場ぐらいの風呂場も、女子が一人入ると、それだけで浴槽が一杯になった。おれは、マリ
と入った。これは楽しかった。彼女は、自分の身体に泡をたてて、それを巨大なスポンジ
としてマットの上で洗ってくれた。全身の筋肉が解れていった。巨女たちとの相手は、た
とえ二倍体であっても、男性には激しい苛酷な肉体労働だ。おれも気が付かぬ内に、全身
に赤や青の痣がいくつも生じていた。ボクシングの十五ラウンドを戦い通した、ボクサー
の気分だった。
「上戸先輩、今夜はありがとうございました。あたし、楽しかったです」
「ああ、おれもな」
「リラックスして女の臭いを、洗い流していってくださいね」
「そうさせてもらうよ」
 おれの背中の上を、マリの固くなった乳首が滑っていた。字を書いているのが分かった。
カタカナだった。何と描いているのだろうか。神経を集中した。「スキ」と読めた。
 おれは仰向けになっていた。
 彼女の腰が、おれの再び精液が蓄積されて充電され、猛り立ったマグナム・ペニスの上
に、ゆっくりと下りてきた。指二本で開門してくれている。
「やらせたげます。そのかわり、ナカダシは、しないでくださいね」
「わかってる」
 男の弱い精液の力でも、数千分の一の確率で妊娠させる性能があった。まして、少女の
新鮮で優秀な子宮は、飢えたように精液を吸い込もうとしていた。危険を犯すつもりはな
かった。
 おれは、腰を動かし始めた。姫始めだ。今年の書き初めを開始していた。まず「の」の
字を大きく描いていった。一筆描きである。
 振部と黒須も、それぞれにメグと瑛子といい夢を見たのだろう。みんな妙に長かったか
ら。それぞれに、小一時間ずつも入っていたから。二人きりの風呂場では、何でも出来た
ことだろう。
 待っている間に、酒になった。ビールの栓が、景気良くシュッポオン!と抜かれた。マ
リのお酌で飲んでいった。日本酒が好きだというおれのために、なんとマリが自分のあそ
こに、ワンカップの清酒『美少年』のガラスのコップを入れた。一度に三合分を、熱燗に
してくれた。本当の、とろりとした人肌だった。実に旨かった。
 今日は、さすがに疲労困憊していた。前にも言ったように、本当は、男三体女一の割合
で、ちょうど良いのだ。一体一は、かなりの重労働できつかった。いつのまにか、マリの
膝の上で、いびきをかいていた。
 その夜は、瑛子の家に泊まり込んでしまった。気が付くと瑛子のベッドに男三人が並ん
で寝かされていた。ベッドの面積は広大だった。幅だけでも、まだ優に男三人ぐらいが寝
られそうな余裕があった。朝の光が、まばゆく白いシーツの上に差し込んでいた。
 女たちは、底知れぬ体力で徹夜をしたらしい。「おはよう」と、三人に明るく声をかけら
れた。みんな生まれたばかりの自由な姿態のままだった。少女時代の衣服でいっぱいだっ
た床は、きれいに片付けられていた。代わりに酒の瓶が林立していた。振部と黒須は、い
びきをかいて熟睡していた。
 瑛子は、ヴィーナスのような裸体にエプロンを付けて、台所で寝呆け眼のおれたちのた
めに、器用においしい朝食をつくってくれた。フライパンに目玉焼きとベーコンが焦げる
芳ばしい匂いがした。自分たちのためにも冷蔵庫を漁っては、酒の肴を何品かこしらえて
いた。
 瑛子のマンションを出たのは、もう九時を回っていた。女たちは、もう少し飲んで帰る
という話だった。海が真珠のように光っていた。完全な朝帰りになってしまった。太陽が、
黄色くてまぶしかった。昨夜は、何発やったのかさえ思い出さなかった。マリがおれとや
りたいために、『着せ替え人形同好会』を企画したのではないかという気がした。色男の優
越感を味わっていた。肉体関係になったのだ。
 駅に向かう繁華街の透明なゴミ袋に、黒いカラスが群がっていた。シャッターは下りた
ままだった。冬の空は水色に透き通っていた。きらきらする光の微粒子に満ちていた。雲
ひとつなく晴れ渡っていた。
 電柱の下に、華麗なお店を広げた奴がいた。お粥のように、とろとろでシチューのよう
に新鮮な、レモンイエローをしていた。大鍋を引っ繰り返したような量からして、泥酔し
た女のものだろう。鏤められた赤い花は、未消化の人参のかけらだろうか。今日見るもの
は、下呂まで新鮮で美しかった。
 おれは、キング・クリムゾンを口笛で吹いていた。『Island』のマーク・チャリグ
のコルネットのソロのパートだった。黒須がヴォイス・パーカッション。振部がシンセサ
イザーのパートを裏声で歌ってくれた。なかなか気の合うトリオだった。男には恐怖の的
の『着せ替え人形同好会』も、そんなに悪いものではなかった。また御呼びがあれば、参
加してもいい。そう思っていた。
新・第三次性徴世界シリーズ・10
『着せ替え人形同好会』の巻・後編 了
笛地静恵
【作者後記】訂正とお詫びがあります。第10巻に予定していた「巨大妹中学生日記の巻」
は、構想がふくらんでいます。それ自体が、第三次性徴期の少女の身体のように、巨大化
しています。もともとは、内気な美少女だった貴子の、小学校六年生から中学一年生まで
の、一年有余の日記の抜粋の形式でした。しかし、半年分だけで当初の予想の、四倍以上
の枚数になってしまっています。歌舞伎役者の卵として、厳しい修業をしている兄への思
慕を、日記形式で綴った物語です。抜粋といっても、かなりの数の日々の心の変化を克明
に追う必要が、書いていて生じてしまいました。(そうでないと、嘘になるような気がしま
すので。)シリーズの約三分の一である、第17巻の発表までが完了したら、『外伝』のよ
うな形で別に発表したいと考えています。しばらくお待ちください。代わりに、もうひと
りのブラザー・コンプレックスの少女である大海瑛子の、中学二年生の正月のある物語を
送ります。お楽しみください。笛地静恵。
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GIRL BEATS BOY