人妻に負ける屈辱
−女教師 墨田麗子−
Text by nob
 前 編

「私が墨田先生に負けるのであれば、素直に先生の指導法に従いましょう。」
「…判りました…。空手は武道。私闘ましては、こんな形での異性間での戦いが許される
とは思いませんが、先生にご理解して頂く為です。仕方ありませんね…。」
 某私立高校の空手部道場であった。
 二人の男女が向い合っていた。どうやら試合をするらしかった。
 共に空手部顧問である。ことの起こりは二人の指導法の対立にあった。
 男子部顧問 吉見幸信の部員生徒に対する稽古方法に女子部顧問 墨田麗子が意見した
のが始まりである。
 男子空手部は学校創立以来の伝統があり、かっては数々の栄誉に輝いてきたが、吉見が
顧問に就任してからは、地区予選においても1回も勝てずにいた。対して女子空手部は僅
か3年前に設立でありながら、設立と同時に顧問に就任した麗子の指導力もあってか、年々
成績を上げ、今年は全国大会出場が決まっていた。

「吉見先生の指導方法は古すぎます!
 今や、選手のスキルに合わせてトレーニングメニューを組むべきです。何かと言えば根
性、努力、次には竹刀での制裁では、怪我人ばかり増え決して成果は上がりません!」
「女子部顧問は黙っててもらいましょう。
 そりゃ、確かに女子部の実績、墨田先生の指導方法は認めましょう。
 でも男子と女子は違うんです。
 男子にはあれで良いんです。成績が上がらないのは奴らがカスばっかりだからだ…。」
「スポーツの指導法に男子も女子もありません!
 指導者の問題です!!」
「空手はスポーツじゃない、武道だ!しかも元々は格闘技だ!!」
「武道でも格闘技でも一緒です…」
「一緒じゃない!本来は男の格闘技だ!!
 女子の空手なんて最近流行ってるお遊戯じゃないか…。」
「なんですって!」
「おや、これは申し訳ない。
 お遊戯じゃ失礼だ、社交ダンスですね。」
「………。」
「………、どうかしましたか?お遊戯や社交ダンスという言葉にご立腹ですか…?
 でもそうとしか見えないんだから、しょうがないでしょう。」
「吉見先生、その二言は取り消して下さい。
 女性蔑視ですわ。」
「確かに女性蔑視に聞こえるかもしれない、でも事実でしょう?
大体、女性が武道や格闘技をやったとして、どうなるんですか?
そりゃ、ちょっとは護身術にはなるでしょうがね、無意味じゃないんですか?
本気でやれば女性が男性に勝てる訳ないんですし…。
結婚すれば女性は亭主に守ってもらうんでしょ?
墨田先生だって自宅に帰れば人妻だ、亭主の下で色々と楽しい思いをしてるんでしょ。」
「下品なことは言わないで下さい!
 武道や格闘技をするのは、自分を磨きたい、又強くなりたいからではないでしょうか?
その気持ちに男性も女性も違いはありません。」
「だから、女性が強くなってどうするというんですか?
 何遍も言いますが女性が男性に勝てる訳ないんですし…。
 所詮、女はレイプされる存在です。寧ろどうしたら男性に守ってもらえるか、考えたほ
うが良いんじゃないんですか?」
「………、さっきから、女性は男性に勝てないって何度も仰ってますが、どうしてそう決
め付けるんですか?
そこまで女性を見下すのは何故なのかしら…?
 はっきり申しますわ。私が教えている女子部員と吉見先生が指導されている男子部員で
試合をしたとして女子が負けるとは思いませんわ。それどころか男子が1勝も上げられな
いんじゃないかしら。
 最も私が指導すれば互角にはなるでしょうが…。」 
「何だって!!
 ………。
 フッ、アハハハハー!
 本気で腹を立ててもしょうがない。
 男女平等の世の中だ、先生がそう言う気持ちもわかりますが…、
 でも、負け惜しみにしても面白い冗談ですね。
 じゃ、先生こうしませんか?
 先生が私に女子空手も武道又は格闘技ということを教えて下さい。」
「どういうことですか?」
「先生と僕とで試合をしましょうよ。」
「本気で言ってるんですか?」
「勿論、本気ですよ。
 墨田先生にその気があればですがね。
 女性でも男性に勝てる、ということを証明してみて下さいよ、私に対してね…。
 まぁ、無理だと思いますがね…。
もし、僕が負けたら指導法を含め考えを全て改めます。」
「分ったわ、その試合受けます。
 私が勝っても後悔なさらないでね…。」
「こりゃ、驚いた!」

 そんな訳で今、二人は対峙していた。
 共に同じ年齢で29歳。身長はそんなに変わらずにいたが女性の方が僅か高い。男が173
cm、女が174cm位であろうか、両者共に空手着を身にまとい黒帯で締め上げている。
 空手着の上からでも二人の体型は見て取れた。
男は筋肉質で締まりながらも、腕、胸板、脚等体のパーツ全てが太くゴツい、誰が見て
も格闘技をしているとわかる肉体を持っていた。
女は筋肉質というよりは無駄な贅肉が一切無いというべきであろう、細身とは言えない
が太過ぎもなくしなやかな肢体をしている。それでいながら女性としての出るべきところ
はしっかり張り出し、くびれるところはしっかりくびれている。恐らくは上から96のG.
62.92といったサイズであろうか。加えるに、今は道着のズボンで見えないが張り出した
ヒップからキュっとしまった足首にかけてのラインもすべての男の眼を引き付けずにはい
られないものであった。年齢と教師という激務による崩れは一切感じられず、まるで武道
とか格闘技といったものと無縁としか思えない、グラビアモデルになっても充分通用する
セクシーさ、そんな肉体の持ち主であった。
「しかしながら美人は何を着ても似合いますね。
 加えて、そのムチムチボディ…、空手着の上からでも良く判ります。 
本校の男子生徒の全てが、いや生徒ならずとも男性なら一度は性的妄想を抱く、という
のも良く判りますね。罪作りな先生だ。
 教師にしておくのはもったいない美貌と色気、毎晩一緒にいるご主人が羨ましい。」
 吉見は改めて上から下まで嘗め回すように麗子を見つめ、そして極めて締まりの無い下
卑た表情で言った。
 事実、麗子はその肢体だけでなく美貌にもかなりのものがあった。しかも、それは見る
ものを冷たく突き放す類のものでなく、寧ろ優しさに満ちて相手を引き付けて放さない、
安堵さえ与えるものであった。学生時代にはモデルや女優の勧誘は数知れず、教職に就い
てからも週刊誌等の取材を受けることが多々あった。もっとも麗子は全て断ってはいたが。
「ここは道場です、しかも貴方は教職者です。
下品な発言は慎んでください。」
その声には怒気を含んでいた。 
「美人が怒るとまた、色っぽい!
 あっ、そうだ!以前、僕が先生に手紙を書いたのを覚えていますね。
 もし、僕が勝ったらデートしてくださいよ。」
「な、何を!
不謹慎なのも程があるわ!!
 結婚してるって知りながらラブレターまがいの破廉恥な手紙を書いてきて…、
 それでも同僚だからと思って校長始め、みんなに黙っていてあげたのに…、
 それを又持ち出すとは…」
「先生みたいな、いい女だったら、男は皆そう思いますって!
 ましてやお互い既婚者だ。あと腐れなく遊べると思うじゃないですか?
 僕だって、妻に内緒で何度先生にお世話になったことか…、
 あっ、一人エッチのことですよ、言わなくてもお判りだと思いますが…。
大体、女性が男性に勝てる訳無いんです。まして格闘技で…。
結果の見えてる試合なんて僕には時間の無駄です。
 先生の為に付き合って上げてるんだ。それ位のご褒美があってもいいでしょう?」
吉見は終始、ニアつきながら話していた。
「いい加減にしなさい!
それ以上言うとセクハラで校長に報告するわ!!」
言った麗子はもはや怒り心頭であった。
「どうぞ、見る人が見れば、これからの試合だってセクハラだ。
試合を求めたのは僕ですが女の強さを見せると言って受けたのは墨田先生、貴女ですよ。
やっぱり男性には勝てないからって、試合を止めて校長に報告しますか?
その方が女性らしい、と言えば女性らしいですがね。」
「分ったわ…。
 どこまでも女性を馬鹿にした人ね…。
そこまで馬鹿にされては黙っていられません。
今まで思っても決して口にはしませんでした…、女性として男性を傷つけてはいけない
と思ってましたから…。
吉見先生、貴方の空手の実力じゃ私の足元にも及びませんわ。
決して勝てはしませんよ。
覚悟なさってくださいね。」
「これまた、面白い冗談だ。
そこまで言ったんだ、ただのデートじゃすみませんよ。
下着を洗ってきてくださいね。ご主人に対する言い訳もね。
しかし、これでやっと憧れの墨田先生とデートできる!
 さぁ、とっとと始めましょうか?」
既に険しい顔をしていた麗子がこの一言で構えを作った。
それに合わせて吉見も構えたが、顔にはしまりがない。
「審判はいませんが、その辺はお互い経験者同士ということで…。
じゃ、行きますよ!」
ニアついたまま構えて前に出た吉見は、そのまま麗子に鋭い突きを放つ。
全く基本動作そのもので流されはしたが、吉見に取っては、ある種のフェイントであり予
測通りであった。
女が僅か形を崩したのを見てとった男は続いて蹴りそして再び突き。そして蹴りから突き、
といったコンビネーションを何度となく放っていった。そのスピードは最初の1発とは段
違いのものであったのは言うまでも無い。
しかし吉見の突きや蹴りは一つも麗子の体に到達しなかった。
麗子はそのひとつひとつを落ち着いて捌いていった。表情には余裕さえ窺われているよう
である。
それどころか吉見の腕や脚は麗子の受けで流されているとは言え、よく見るとそれは弾き
飛ばされているようにも見えた。
普通で考えるなら、如何に受けが上手かろうが攻めの方が勢いがある分、押し込まれるの
は守り側である。
しかしこの場合、むしろ押し込まれるどころか、繰り出される吉見の腕や脚に対して受け
の形をもってピンポイント攻撃で返している、と言った方が扱く妥当のようであった。
どこに、引き締まってはいるが、白く細いしなやかな腕や脚に、太くごついそれを弾き返
すだけの力があるのであろうか?
遂には腕と腕、脚と脚が交差する度、吉見は小さく呻き声を上げる様になっていた。攻撃
を仕掛けているにも関わらずである。
一頻り攻めた後、吉見は間を取り呼吸を整えた。
「少しはやりますね…。」
焦りを感じながらも余裕を繕っていた。
捌かれた自分の腕や脚にそこらかしこに痣が残っているのであろう、受けによるダメージ
が残っているを感じていた。
それに比べて麗子の腕や脚は白く綺麗そのものであった。
(女の受けでダメージが残るとは…!?
 それどころか女相手に1発も入れられない…?
 女相手に本気を出さなきゃ負けてしまう…!?、そんな馬鹿な!
とにかく、このままじゃ、攻め疲れてしまう、早く決めなければ…。)
気を取り直して再び構える。再間合いを詰め今まで以上にスピードを乗せ蹴りや突きを何
ダースにも渡り打ち込んでいく。今やその顔にもニアついたところなど一片もなく真剣そ
のものである。
しかしながら、それらは又も麗子にいとも簡単に捌かれてしまった。
しかも受けられながら更なるダメージが吉見の手足に蓄積されていく。
とうとう攻め疲れた吉見は肩で息をするようになっていた。
対する麗子はあれだけの攻撃を全て受け流したのにも関わらず、又も表情はおろか息使い
にも何一つ変化はなかった。
「どうしたの?吉見先生。
 女性の社交ダンスに付き合ってくれなくて良いのよ。」
「ふざけるな!女のくせに!」
麗子の言葉に侮蔑と挑発を感じた吉見は怒りに任せ不用意にも防備をせずハイキックを顔
面めがけて繰り出した。
身を屈ませ難なくかわした麗子は前に踏み込み、逆にがら空きになった吉見の顔面に正拳
突きを放つ。
為す術のない吉見は息を呑んで向かってくる麗子の拳を見つめた。
「あ〜!!」
直撃寸前、無様にも声を上げ、顔をしかめ固く眼を閉じてしまう。
が、その拳は直撃されることなく寸前で止まっていた。
眼を開けた吉見は、そのまま腰を付いてしまう。
「ふっ〜!」
見上げると優越感をその美貌に湛えて微笑んでいた麗子の顔があった。
既に臨戦態勢は解いていた。
「どうかしら、これで一本ね。
 どう?女子の空手がダンスじゃないってことが判ったかしら…。」
言い終わらない内に麗子は脇腹に痛みを感じて、その場に片膝を付いてしまう。
吉見は立ち上がりながら既に戦う気の無い麗子にミドルキックを打ち込んだのであった。
「卑怯よ!男のくせに!!」
脇腹を押さえながら身を起こした麗子は吉見を睨みながら叫んだ。
「何を言ってるんですか?
 確かに高校生の試合でのルールは寸止めです。
 そう言った意味では麗子先生の勝ちかもしれません。
 でも先生も言ったじゃないですか、空手は武道であり格闘技だ!って。
 本当に打ち合ってこそじゃないですかね?」
誰が見ても吉見の完全な負けである。
にも関わらずシレッとして言ってのけた。
「そんなこと、始めから聞いてないわ!!」
「これだから、女は嫌なんですよ。
 言い訳ばっかり考える…。
 往生際が悪いんだから…。
 でも、どうです…?
 これで止めにしませんか?
 寸止めっていう条件付きではありますが一応、私に勝って先生の面子も立ちましたでし
ょう。
 フルコンタクトでやれば女の先生が勝てる訳無いんですから…。
 それに綺麗な体の麗子先生を抱いてみたいですしね。痣だらけにしてしまっては楽しみ
は半減だ…。」
「勝手なことばかり言わないで頂戴!
往生際が悪いのは、どちらかしら?私があのまま、止めなければ先生の顔は今頃ぐちゃ
ぐちゃになっていたのよ。
吉見先生、本当に貴方って卑劣な人ね。
見下げ果てた最低の男だわ!
私を抱く…?、冗談じゃないわ!
私これまで、さっきも言いましたけど女性として男性を傷付けちゃいけない、とずっと
思っておりましたの。
勿論、同じ職場同僚ということもありますしね…。
だから、今までは手加減してましたわ。
でも、これからは本気でやらせてもらいます。先生のいうフルコンタクトでね…。
もう許さないわ!!
貴方が如何に女性に対して思い上がっているか、又、本気を出した女性がどれほどのも
のか知ってもらいますわ。
それから…、これだけは決して言うつもりは無かったけど…、今、はっきり申し上げま
す。
男性が女性に何をやっても勝てるわけないわ!
全ての面で男は女性に劣る存在よ!
殆ど男性がそれを知らないだけ!
そのことを、その身を惨めで情けない姿にして、貴方に教えてあげますわ…。徹底的に
ね。
もう試合じゃないわ、今後は女性からする男性に対する教育よ!覚悟なさい!」
「やれやれ、しょうがないな…。」
怒りを越して冷静とも言うべき口調に対して混ぜっ返した吉見に、麗子は既に取り合わな
かった。大きく呼吸を整えて再び臨戦の構えをとった。
「さぁ、どこからでもどうぞ。」
言う麗子に対して吉見も再び構える。
が、容易に攻め込むことが出来なかった。
吉見の眼に麗子の姿が、それまでと違い一回り大きく写っていたのである。
麗子の本気になった気迫に圧倒されていたのであった。
「来ないなら行くわよ。」
言うや否や、麗子は物凄い速度で腕や脚を吉見に繰り出していった。そのスピードたるや
先程の吉見の攻撃の比ではなかった。
顔色一つ変えずに機械のごとく正確さと連続性をもって繰り出される攻撃に吉見は防戦一
方になる。
しかも辛うじて付いて行くのが精一杯である。加えて、受けながらも麗子の腕や脚に、攻
撃時には感じもしなかった、鋼鉄のような重さや硬さをも感じている。当然ながら蓄積さ
れるダメージは攻撃してる時とは比べ物にならなかった。
今この瞬間も腕や脚が交差するたび吉見が小さく呻くのは変わらなかったが、時が経つに
つれ、その声が段々、大きくなり遂には、叫び声ともとれる大きさになっていった。
対して麗子は相変わらず呼吸一つ乱さず、冷静そのもので吉見を攻め続けていた。
疲れとダメージの蓄積もあったのであろう、いつ終わるとも分らない麗子の連続攻撃の全
てに吉見はとうとう対応出来なくなっていた。
少しづつ麗子の拳や脚が吉見の体を直撃するようになっていった。

がら空きとなった吉見の腹部に体重とスピードの充分乗った麗子の中段正拳突きがめり込
んだ。
大きく呻き声を上げ、その場にへたり込んでしまう。
「どうしたの!?
 まさか、終わりじゃないでしょうね?
 男の貴方が女の私に、こんな簡単に負けてしまうの?」
侮蔑を込めた声を浴びせる。
「ふざけるな!」
顔をしかめながらも辛うじて立ち上がると大きく深呼吸をすると吉見は構えを取った。
「そう、そうじゃなくっちゃ!
 教育のしがいがないわ!」
「くそっ!」
反発しながらも吉見は立っているのが精一杯の様子である。
「いくわよ!」
再び麗子の怒涛の攻撃が始まった。
が、これ以上の麗子の攻撃に対する追従は最早不可能であった。
吉見は既に体力の限界を超えたようであった。
攻撃の全てが的確に吉見に直撃しだした。
下段回し蹴りでダウン…。
中段回し蹴りでダウン…。
再び中段正拳着きでダウン…。等等。
何とかガードしながらも、上段回し蹴りでそのまま道場の隅まで吹っ飛ばされるようにも
なっていった。
その度毎に麗子に罵声を浴びせられた。
「さっさと立ちなさい。
どうしたの?さっきの勢いは?
 女なんかに負ける訳は無かったんじゃないの?」
「そのざまじゃ、私を抱くなんて百年早いわ!」
「吉見先生、そんなことじゃうちの女子部の生徒にも勝てないわよ!」
「情けないわね、でも、それが本当の男の姿よね?」
言われながら、言葉を返すこともできない。
辛うじて立ち上がりはするが腕を上げることも出来ず最早人間サンドバックとなり果てて
いた。
逆に全ての攻めが面白いようにヒットするようになると麗子の攻撃も微妙に変わっていっ
た。
ダウンさせないように手加減しながら打ち込んで行く様になったのである。
「相手が、如何に弱かろうが普段こんなリンチまがいのことはしないわ。
 特に男性に対してはね…。
でも貴方は別、徹底的に痛めつけて上げるわ。
 大体、男が女性より優秀なんて思っているのが間違っているわ!
 貴方の今の姿がね、女性に対する本当の男の姿なの…。
 男が女性に勝てる訳ないの!
 だから女性は男性に対して優しくするんじゃない…、弱い存在なんだから。
それを勘違いして…。」
吉見の体全体に見る見る間に青紫色の痣が増えていった。
既にボロボロと言っても過言ではなかった。
吉見の足腰がふら付き始めたのを見て取った麗子はその襟首を掴み、倒れない様に支えな
がら、なおも突きや蹴りを放つのを止めなかった。
しかも、その攻撃はまるで鼻歌にでも乗せているかのようにリズミカルであり、打ち込ま
れた拳や脚は百や二百ではききそうになかった。
麗子に襟を掴まれ倒れることも許されず、為すがままの状態で叫び声と呻き声しか上げら
れずにいた吉見であったが、男の意地であろう、決して負けを認めようとしなかった。
が、容赦なく延々と続く攻めに対し、とうとう泣きを入れてしまった。
「も、もう許して…。」
辛うじて残ってる意識で呻くように吉見は懇願した。
「駄目よ、こんなもんじゃ許さないわ!
女性の強さ、そして男の弱さを徹底して知ってもらうわ!」
「ねぇ、も、もう…、充分わかったから…。
お願い…。」
涙声でさえ出てしまう。
「あ〜ら、男のくせに女性にいたぶられて泣いちゃったの〜?
 既婚の立派な体をした男性が同じ年の人妻にいたぶられて泣いちゃったのね〜。
 ふふっ、情けないわね、いいザマよ!
 それが本当の男の姿なのよ!
 でも、まだ、これじゃ終わらないわ!
 女性に対しあれだけ馬鹿にしたことを言ったんですもの!
 もっと惨めな気持ちを味わってもらうわ!」
吉見の涙声を楽しむかのように麗子は攻めの手を休めなかった。
「ねぇ、男が何故、女性より弱いか分る?
 股間にだらしなくぶらさげている、その象徴よ!
 それが、あるから男性は男性よね。
 でも、そこが最大の急所じゃない?
 男性を男性たらしめるもの、それが最大の急所なんて…、
 誰がどう考えたって、男が強い訳ないじゃない!
 決して強さの象徴なんかじゃないわ!
 でも、男の方では勘違いしてる!
 男たちが犯すんじゃないの!私たちが優しく包み込んで上げてるの!
 それが役立ってもらわないと、種の保存にも影響するし…!
 だから、女性は男性に優しいのよ。
 それを理解もせず…、本当に許せないわ!」
反応なくただ涙声の吉見に対し麗子は独り言のように言うと一層速度を増して、その体を
打ち叩いた。 
しばらくは涙声と肉体を打つ音のみがが木霊していた道場内であったが遂には後者しか聞
こえないまでになっていた。
「お情けで顔と股間は狙わずにいて上げたのに、本当にもう駄目みたいね。
 しょうがないっか!
男って元々、弱いんだし、これ以上やると本当に弱い者虐めだわ。
 いいわ、これで終わりにしてあげる。」
言うや麗子は吉見を離し、少し間合いを取るとがら空きになった頭部に上段回し蹴りを放
っていった。
それは綺麗に吉見の頭部に吸い込まれていった。
僅か残っていた吉見の意識は完全に暗黒の闇に落ちていった。

吉見が眼を覚ましたとき、額に濡れタオルが当てられていた。体のあちこちには湿布薬も
貼られていた。そして、傍らには墨田麗子が腰掛けていた。既に空手着から着替え通勤用
のスーツ姿になっていた。どうやら気が付くまで待っていてくれたらしい。頭の下には枕
が添えられており、どうやらそれは麗子が自分のジャージを折りたたんで即席で作ってく
れたもののようであった。
「よかった、意識が戻って!」
試合中とは打って変わった温和で菩薩のような麗子の笑顔があった。
「ぼ、僕は…。
そ、それに、これはみんな君が…?」
「何にも言わなくていいの…、
 ごめんなさいね、結婚している女性が男性をこんなにしちゃうなんて… 
 本当にごめんなさい。
私ったら、むきになって見境なく、随分ひどいことしちゃって…。
 貴方が意識を失くしてから…、随分経って落ち着いて…、私、本当に反省したの…。や
り過ぎたって…。
ただ、わかって欲しかっただけだったのに…。
吉見先生があんなにまで、おっしゃらなければ…。
 …、ねぇ、お互い今日のことは無かったことにして忘れましょう。
 如何に暴言があったからって、でもこんな姿見ちゃうと…、自分でしちゃったこととは
いえ決していい気持ちはしないわ。
 女性として男性にはやさしくあるべきなのに…。
 私って、たまに冷静さを欠いちゃう時があるから…、本当にっ!ごめんなさい!!
本当に生徒に対する指導法、男女関係の考え方さえ改めて貰えれば、私としては明日か
ら職場の良い同僚に戻れるわ。
ねっ、吉見先生もそうして…!
今日のことは本当に誤るし、決して人には言わないから!」
「で、でも…、。」
「いいのよ、私も人妻よ。
 男性の世間体がどれほど重要か、は充分知ってるわ。
先生だって男として私と試合して負けた、なんて口が裂けても言えないでしょうし、私
だって人に言えないわ…。しかも、ここまで酷い状態にしちゃって…、女として自慢でき
ることではないもの…。
それに今までの吉見先生の考え方ではショックでしょうけど、私と先生の間だけがこん
な形になる訳ではないわ。女性は皆できるのよ。
いえ、全ての男性に対してね。ただ、女性がそうしないだけ、そして言わないだけ…。
本当はこれが男性と女性の真実の姿…。
だから、決して気にすることないわ。
たまたま、先生は私がいてきっかけがあって事実を知ってしまう機会があっただけ…。
ちょっと遅かったけどね…。
あっ、ごめんなさい、今はこれ以上、傷つける気なんて無かったのに…。
本当にごめんなさい。
このことは落ち着いたら後で、ゆっくり考えてみて…。
とにかく、お互い今日のことは忘れましょう。」
「…。」
「ねぇ、セクハラまがいの発言だって先生の私に対する好意だと思って忘れるわ…。
こんなにしてしまったのに、更に男性に追い討ちを掛けるまねなんて出来ないわよ…。
先生を首にさせることなんて出来ないわ!
今日のことは本当に忘れて、これからも一緒に仕事をしましょう、いえ、したいわ!!」
「う、うううー。」
女性に負けて、その相手の女性に情けを掛けられていることを惨めと感じたのか、それと
も純粋に気遣いが嬉しかったのか吉見は思わず涙ぐみ、遂には泣き出してしまった。
「ウフッ、可愛い、それが女性に対する男性の素直な姿よ。
もう一人で大丈夫よね?
私、これで帰らせてもらうわ。
本当にごめんなさいね。
明日もよろしくね。協力して生徒を指導して行きましょう。」
吉見と理解しあえた、そう判断した麗子はそういうと素早く身支度を整えると足早に道場
を後にした。
一人取り残された吉見は、誰憚ることなく大泣きを始めた。
しかしながら、この時、痛みで体を動かすことも出来ないのにも関わらず、男性自身だけ
は活力があり、これ以上に無く屹立していた。
が、本人は全く気付いていなかった…。





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