新・第三次性徴世界シリーズ・4
痛学・満員電車地獄の巻
笛地静恵
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 満員の通勤通学の電車の中は、男性には老いも若きも、危険に満ちた場所です。
 痛学と、ぼくたち男子の学生は呼んでいます。
 夏季の休暇に入っていました。一学期の頃よりは、だいぶ空いていました。それでも、
空席はなかったのです。沿線には、中学校がいくつもあったのです。ぼくの駅に来るまで
に、だいたい満席になっていました。
 車両の中央を天井から床まで貫通している、ステンレスの棒にしがみついていました。
そこから垂れ下った、男性専用の吊り革に捕まっていました。
 それというのも、どういうわけか、女の子たちは、車両の中央部分ではなくて、入り口
のあたりに、たむろしたがるからでした。いち早く、おりたいからなのでしょうか。
 何でも、いちばんになりたいというのが、彼女たちの生き方でした。いちばん可愛らし
いものを持ち、いちばん流行の服を来て、いちばんきれいな女の子でいたいのでした。
 この子どもらしい欲求のために、時には男子が、とんでもない要求を突き付けられるこ
とがあるのでした。そう、です。彼女たちは、あんなにでかい身体をしているのに、頭の
中は、まるっきりのガキなのです。
 男の子といっても、可愛い人形のように玩ぶだけでした。飽きると、ぽいっとすてるだ
けです。とんだ、災難でした。だから、ぼくは。どんな女の子とも、付き合ったことはあ
りませんでした。
 ただし、彼女たちの中でも、好きな部分がありました。なんでも、どこかしら良い部分
があるものですから。
 女子用の吊り革は、車両の5メートル以上はある天井から、ぶらさがっています。3メ
ートル以上の高度にありました。いくら大ジャンプをしても、男子には手が届かない高さ
でした。
 駅についてドアがあくたびに、中学生たちが、どやどやと乗り込んできました。車内は、
つぎつぎと入ってくる学生たちの身体で、たちまちいっぱいに占領されていきました。
 この沿線は、新しいベッドタウンが続くのです。
 駅だって、たいへんなんです。女性用の階段は、一段が五十センチメートル以上はあり
ます。何十段と、天まで聳えています。それを、彼女たちは、朝の忙しい時間帯になると、
二、三段飛ばしで、高速移動して、駆け上がっていくんです。男性専用の昇降用のエスカ
レーターがなかったらと考えると、ぞっとします。男性は、生きてホームに辿り着くこと
さえ、困難になることでしょう。
 特に存在感が凄いのが、もちろん第三次性徴の真っ盛りである、女子中学生の肉体でし
た。女子高校性になると、身体が大きくなりすぎて、電車もホームも別になっていました。
隔離されていますから安心です。なにせ、男性の三倍の身体になるのです。学校も別の地
区にあるのでした。
 二倍の女子中学生でも、すごい光景でした。それが集団で先を急いで、車内の居心地の
良い空間を襲うように、我先にと乗車してくるのです。
 どしんばたん。
 どしんばたん。
 サラブッレドの馬が一団となって、人間の乗る車両に、乗り込んで来たような騒ぎです。
大きな声ではいえませんが、彼女たちの一頭ずつが、ほとんど馬一頭分の体重があるので
した。
 紺色の制服が多いので、車内は紺色の台風のような、一色に染まっていきました。最近
の十代の少女は、凄まじく発育が良くなっていました。人間というよりも、高校性クラス
の、熊のように大柄なものが、ざらにいるのです。
 黒いローファーの革靴に、白のソックスを履いた脚が、肌色の大木のようにずしんずし
んと地響きを立てて、巨大な車両を鳴動させながら、林立していました。
 満員の通勤電車の、限られた空間の中で、彼女たちと肌を擦り合わせるようにして立っ
ていなければならないのです。電車のゆれによって、紺色の塔は、ピサの斜塔のように、
ぼくの方にぐらりと傾いてくるのでした。
 太腿は馬の胴体のようです。簡単に跨がって、大草原を疾走できることでしょう。
 ぼくは、ちらちらと、その腹部と臀部を、眺めることしかできないのです。なんと大き
いのでしょうか。いつも、ため息が出ます。
 その二メートル以上になるヒップに、手を回して抱き締めることができる、大男など、
この車両どころか、日本中探しても、おそらく一人もいませんでした。
 巨体の迫力に、圧倒されてしまうのです。どこを見ていればいいのか、迷ってしまいま
す。妙に視線が合うと、難癖を付けられて、途中の駅でも下ろされてしまいます。
 ほとんど無人の、「旧世界」の廃墟の多い土地の中で、何をされるか分からなかったので
す。でも、男性にとって、いくら大きくても、女性の身体に視線をむけてしまうのは、そ
の生理の自然でした。チェロのようにくびれた腰と、大きな尻の作る優雅な曲線には、魅
了されてしまいます。
 最近は、スカートの丈が、極端に短いものが、流行しているのです。
 ぼくでは、たとえ七三に分けた髪の毛の頭のてっぺんでも、彼女たちのフレアー・スカ
ートの裾に、かろうじて届くかどうかというところでした。
 ちょっと目線を上げただけで、内部の下着が見えてしまうのです。若い女性の肉が、下
着の内部から、若さでむちむちとはちきれるほどに、充溢しているのでした。
 見せても良い、スコートという名前の下着であることぐらいは、分かっているのです。
それでも、健康な生足の上に乗っている巨大な股間や臀部は、圧倒的にエロティックでし
た。
 どこを向いて良いかわからずに、どきまぎしてしまうのでした。思春期の男性には、ま
ぶしすぎる光景でした。
 ぼくは、女性の下着に、何よりも興味のある男性でした。「旧世界」の全裸のアイドルの
写真集などは、再刊されて今でも手に入りますが、それでは、単純に過ぎます。
 深みがありません。
 生身の女性が肌につけた下着こそ、男性にとって、この上のない幻想の世界への扉でし
た。これほどに素晴らしいものが、この世に、他に何があると言うのでしょうか。
 ぼくにとって、女性のスカートは神殿です。内部に神がいますのです。天上の薄闇の中
に、鎮座するパンティこそが輝く神でした。至高の聖所でした。神聖冒涜の意図はまった
くありません。下着を絵にすることは、宗教的な礼拝の行為でした。緊張と集中と瞑想を
必要としたのです。
 決して、女性を馬鹿にしているのではないのです。誤解されることも、多かったのです
が……。
 彼女たちは、同年代の同級生の中学生の男子生徒よりも、自分たちが大柄で力が強いこ
とが、嬉しくてならないらしいのです。
 目が付けられた、かわいい男子学生の頭の上を跨いで、通ってみたり、周りを取り囲ん
でみたりして、はしゃいでいました。何かというと、力自慢をしていました。
 近くにいる男子生徒を、いきなり、胴体を鷲掴みに掴み上げては、天井に届くほどに持
ち上げたりしていました。「高い高い」という遊びでした。そのまま、簡易なバーベルのよ
うに上下に移動させて、腕の筋肉を鍛えたりするのでした。
 両の脇の下に腕を入れて、重さのない犬やネコのように、ひょいと抱き上げられます。
「抱っこ」といいました。そのままに、胸に抱いておろしてくれないのです。内の私立中
学でも、自分の学校の駅で下りられず、遅刻する男子は何人もいました。これで、学校に
報告すると、正当な理由として認められて、遅刻扱いにされないで、済むのでした。
 ですから、男子中学生は、車両の隅の方で、いつも小さく固まっていました。できるだ
け、女子との間に距離を開けるようにしていたのです。彼らの黒い小さな制服姿は、脚の
森の向こうに、ちらちらと見えていました。
 ぼくのように、車両の中央に陣取っている男は、大人でも少なかったのです。それには、
理由がありました。危険を犯してここにいないと、パンチラの決定的な瞬間が、観察でき
ないからでした。それこそが、ぼくが生きている理由でした。文字通りに命を掛けていた
のです。
 このごろは、『サンドイッチ』という悪い遊びが、流行しているのです。
 両脚の間に、可愛い美少年の子を挟み込んで、電車で通学の時間、ずっと、にがさない
ようにするのです。暗いスカートの下で、いろいろとエッチなことをするのです。羨まし
い遊びでした。ノイエ・シブヤあたりで流行しているということでした。
 まだ地方都市の方では、現実的に数は少ないのです。が、この車両でも、慥かに何人か
の男子生徒の、黒いスラックスに包まれた細い脚が、スカートの下から覗いていました。
 同級生も、大人たちも何もいえないのです。恐いからです。油断がならないのです。う
っかり注意をして、相手を怒らせてしまい、半殺しの目に合わされたという話は、何度も
耳にしていました。耳にタコができていました。
 障らぬ女神に祟りなし。
 そんな諺があります。『第三次性徴世界』では、女神は実在するのです。中学生の女子生
徒たちのことでした。
 誰も、巻き添えを悔いたくはなかったのです。でも、ぼくは、いつもうらやましいなと
いう想いで、この光景を見つめていたのでした。
 今も、すぐ近くで、目撃していたのです。
 男子学生を『サンドイッチ』にしてからかうのに、夢中になっている女子生徒がいまし
た。
 車両がカーブで自然にがたんと揺れていました。
 その時です。
 道路のマンホールの蓋ぐらいの直径のある、丸い雄大なお尻が、いきなりぼくの後頭部
に、ぶつかってきたのです。
 どかん。
 大木に殴られたような衝撃がありました。脳震盪を起こすかと思いました。
 幸い、ぼくの前に、サンドイッチの彼女と、同じ学校の制服を来た女子中学生が、もう
一人、立っていたのです。
 ぼくは、よろけた拍子に、顔から彼女のスカートの前に、もろに突っ込んでしまいまし
た。
 少女の二メートルのケツ圧に、弾き飛ばされたと言ったほうが適切でしょう。鋼鉄の球
体が激突したような衝撃でしたから。
 本当に、もろに倒れこんでしまったのです。
 ずっぼん。
 制服のプリーツスカートの生地を通しても、柔らかいくせに強靭な、下腹部の筋肉の鋼
鉄のような感触がしました。
 ぼくの薄い両の肩が、強い指の力で捕まれていました。
 びっくりしました。捕まったと思ったのです。逃げ出そうともがいていました。
「だいじょうぶです。こわがらないでください」
 やさしい声が天上から降ってきました。
「ころばないように、支えて上げているだけです」
 ぼくの体重を、支えてくれていたのです。
 全体にスリムな体型なのに、真下から見上げているためか、意外に盛り上がっている制
服の胸元の向こうから、
 「だいじょうぶですか」
 と、もう一度、心配そうに声をかけられていました。胸の隆起の間から、小さな顔が下
界を覗き込んでいました。心配そうな表情でした。濃い黒い眉が、美少女という印象を強
めていました。ぼくを見下ろしてくれていました。
 172センチメートルのCカップと、即座に判定していた。たぶん、経験的に数センチ
しか、外れてはいないことでしょう。
 清楚な、お嬢様タイプという印象がありました。前髪を、眉の上で切り揃えていました。
大きな丸い瞳が、黒目がちの美少女でした。黒髪が、黒い滝のように、肩から流れくだっ
ていました。表面を光がつうっと滑っていました。
 非力なぼくを、哀れんでくれたようです。ほのかに柑橘系の香がしました。朝のシャン
プーの香でしょうか。香水でも付けているような優雅な薫りでした。奥床しいことでした。
 正直、安堵していました。ぼくの薄い肩に、そっと置かれた手の重量が堪え難かったの
です。肩凝りの原因になりそうでした。重かったのです。しかし、それを口にだすのは、
憚られる雰囲気がありました。
 たまたま、この子が優しい性格だったから、ぼくは、助かったのです。
 怪我をしないで、済んだのでした。
 もし性格の悪い子で、邪険に突き飛ばされていたら……。
 巨大ロボットのような、女子中学生たちの、黒い五十センチのサイズがある、ローファ
ーの足元に倒れこんでいたら……。
 そう思うと、心底ぞっとしていました。
 五体無事では、済まなかったことでしょう。手足の切断のような大怪我をするか、場合
によっては命さえも、失っていたかもしれないのです。電車の床に肉片となって散乱して
いる、自分のまぼろしを見たように思いました。ぞっとしていました。
「マリヤ。足元には、気をつけていなくちゃ、だめよ」
 優しいお嬢様タイプの少女は、はっきりとした芯のある、女性としても低温の声をして
いました。友人にややきつい口調で注意していました。
「えっ。タカコさん。ど、どうしたの?あたし、何かしたのかな?」
 マリヤという少女は、ぼくをそのお尻で突き飛ばしたことにも、まったく気が付かない
でいたようです。脂肪の層が厚いし、それだけ『サンドイッチ』の刑に、夢中になってい
たのでしょう。
 タカコという友人の指摘で、初めて自分の、失態に気が付いたようでした。こちらは、
丸い顔の形をしていました。大きな目に、妙に強い光のある子でた。全身が、丸く膨れて
いるような身体の持ち主でした。
「どうもすみませんでした」
 きつく結った左右のポニーテールの髪の房が、ぼくの頭上で、ぴょこんぴょこんと揺れ
ていました。意外に素直に、頭を下げて謝ってくれたのでした。
 ぼくも、笑顔で答えていました。
「ああ、ほんとうに、かまわないんです。だいじょうぶですから、気にしないでください。
ごめんなさい」
 もしかすると、九死に一生を得ていたのかもしれないのです。が、このマリヤという少
女に恨みを持たれて、後で仕返しをされるのも恐かったのです。
 男性は、女性の力の下で、小心に身の安全を祈って生きるしか、仕方がないのが現代で
した。レイプさえされなければ、幸運だと言えたのです。
 ひとりひとりになれば、良い子だという識者の言葉は本当らしいのですが、わざわざ危
険を犯すつもりには、なれなかったのです。
 それでなくとも、ぼくは臆病な性格なのでした。タカコは、ぼくの背後の立って、壁の
ようになってくれていました。車内の床から壁まで立っている棒にぼくが、しがみついて
います。その向こうに、マリヤがいました。
 それからは、タカコとマリヤという二人は、足元のぼくをほとんど無視して、おしゃべ
りに熱中し初めていました。二人の会話は、ぼくの遥か頭上を航空機のように、飛びかっ
ていました。
 何か女子のバレー部の問題らしいのです。新任のコーチの指導に、マリヤの批判が集中
していました。それを、タカコが、なんとか宥めようとしているようでした。かなり、内
部の際どい批判をしているのです。
 それなのに、足元のぼくの存在は、まったく無視していました。まるで、自分が小さな
子どもになったような気がしました。二人の大きな母親の谷間にいる、幼児の気分でした。
大人の会話を理解する知能は、ないだろうと判断されているような気がしました。屈辱感
がありました。
 しかし、ぼくには、この絶好の機会に、やることがたくさんありました。
 観察をしていたのです。
 その隙に、下着の色が、マリヤがピーチピンクの、ストレッチの総レイスのショーツだ
と確認していました。
 サイドゴムのタイプでした。
 タカコが、ローズピンクの、これもレースのTバッグであることを突き止めていました。
 命の恩人の女の子にも、これをしなくては、済まないのが、ぼくの業のようなものでし
た。
 なにしろパンティ・ウォチングをするには、ぼくたちは、最適の体格をしていました。
それを活用しないで、この世界に、他にどんな楽しみがあると言うのでしょうか。
 本当に、興味深いことなのです。やってみると癖になります。その妙味が分かってきま
す。
 たとえば、今回も、女の子の二面性を示す例でした。
 二人の下着の色と柄とデザインは、何となく逆のような気がしませんか。
 これが、現実というものの多様な側面でした。
 タカコは、谷間の肉の湿った裂目に、小さなローズピンクの生地が、捩れていました、
 暑そうに、食い込んでいました。
 外面は、上品でおとなしいのです。が、内面は激しい性格の子なのでしょう。
 マリヤは、男子生徒の頭が動くと、その上に、黒い陰毛が、明るい下着の端から、ちょ
ろりちょろりと覗いていました。
 彼女は、『サンドイッチ』にした男子を、まるっきり忘れ去ったように、友人とのおしゃ
べりに集中していたのです。
 信じられないような所業でした。ぼくには、こんなに優しくしてくれた礼儀正しい二人
が、一人の別な少年に対しては、自分たちのペットか、生理用品のの一つのように使用し
て、何の罪悪感も抱いていないのでした。
 マリヤは、サンドイッチにしているのに、それ以上には、可哀相に、遊び相手にも、し
てやっていないのでした。
 本当に同性としては、気の毒なことでした。もっといえば、嫉妬を覚えることでした。
 ぼくは、こんなに下着に興味があるのに、サンドイッチの具にされる体験は、かつて、
一度もないのでした。自慢しているわけではありません。別に、腕力に自身があるからと
いうような、水準の問題ではないのです。
 無意識に、女子が、ぼくには、警戒感を覚えているのかもしれません。いや、それ以上
に、不細工なぼくの容姿では、女の子の審美眼の触手が、動くはずがありませんでした。
 きれいな顔の奴らが、羨ましくもあったのです。
 女子の男子に対する、車内での痴漢行為は日常茶飯事でした。ズボンの上から握られた
経験ぐらいは、だれもがありました。
 いきなり抱き上げられます。胸に押し当てられます。窒息するようになるまで、解放し
てくれません。男子の誰も。女子の腕力に抵抗できないのです。地上三メートルの高度に
拉致されてしまえば、奴らの思うがままでした。唇を奪われた子もいました。
 特に、熱い日は、女子がもんもんとしているから、危ないと言われていました。皮下脂
肪が熱いので、男性よりも女性の方が暑さには弱いのではないのでしょうか。酷暑の今年
など、何か異常な事件が、明日にも発生しそうでした。恐い世の中でした。
 みんな恥ずかしいから、黙っているだけなのです。たいていの男子が、経験があること
でした。
 それすら、ぼくには一回もありません。
 ぼくは、サンドイッチといわずに、もう少し小さい身体になって、一日中、パンティの
内部に幽閉されても、構わないぐらいに思っていました。
 洞窟の内部を、自由に冒険したいぐらいに、妄想を膨らましていたのです。それなのに、
一度も御呼びがかかりませんでした。
 あのスカートの内部では、酸素は不足しているのではないでしょうか。
 初夏の密閉した満員電車の内部の空気は、ただでさえ女子中学生の体臭一色に、染めら
れていったからです。
 むんむんとしていました。
 特に男性の立っている下界の空気は、そうだったのです。重くて、液体のように濁って
いました。酸素が不足している感じが常にしていました。
 彼女たちは、遅刻するぎりぎりまで寝ています。早朝は、焦っているのです。トイレに
いっても、小便のしずくを完全にきらないで出てきてしまいます。
 パンティの前に黄色い液体を数滴分、染み込ませていることが多いようです。大便をト
イレットペーパーで拭いたつもりで、実は肛門の周囲に擦り付けてしまっている子もいる
でしょう。黄色い印を見た記憶は何度もあります。
 大勢の中には、当然のことながら、一定の割合で、生理の子も混じっています。血の香
がするのは、仕方がないことです。
 『第三次性徴世界』で成熟するために、ホルモンの代謝の活発な少女は、子宮からの半
透明のゼリーのような、オリモノの量も多いのはずでした。
 それに、走って電車に乗り込むので、夏の脇の下には、大量の汗もかいています。腋臭
の少女もいます。
 女性は、男性よりも体臭が濃いのが普通ですが、特に第三次性徴が発現する十代の前半
は、その最盛期にあたるのでした。
 制服は、ろくに洗っていないのです。
 タカコは、そうではありませんが、マリヤの黒のローファーからは、足臭が立ち上って
いました。
 朝からシャンプーの清潔な匂いを漂わせている、タカコのような少女もいれば、マリヤ
のように日向の校庭の埃のような臭いを、させているものもいました。
 これに当然、呼吸にともなう、口の中の臭いがかぶさってきます。
 タカコは、朝のコーヒーや、ジュース。トーストに目玉焼きの洋食の匂い。スペイン料
理の香辛料のサフランの香もしていました。
 マリヤは、納豆や味噌汁の和食の匂い。
 そして、二人とも、キシリトール入りの歯磨き粉の匂い。
 これらすべてが渾然一体となって、車内は女子中学生という、巨大な存在の発散する体
臭に染まっているのでした。
 もうこうなると、移り香というような穏やかなレベルではありません。
 男子の教室に入っても、しばらくは、みんなの髪やスーツの全身から、取れないで漂っ
ているぐらいに、濃厚な風味のあるものでした。
 タカコという少女の、オレンジを連想させる微かな香水の匂いが、わずかに爽やかな、
一服の清涼剤だと言えました。
 彼女たちの下着の中に、幽閉されているような気分のする時間なのです。そんなことを
妄想している間に、天女中学校のある駅に、電車は到着してしまっていました。
 「ほら、出ておいで」
 マリヤは、スカートの前の扉を摘み上げるようにしました。
 『サンドイッチ』にして、独占していた男子中学生を、ようやく自由にしてあげたので
す。
 スカートの下の牢獄から、囚人が釈放されていました。
 白面の美青年でした。夢から覚めたばかりのように、ぼんやりとしていました。視線が、
定まっていませんでした。
 まだ、どこかに初々しい少年の面影を残してもいました。同性には目鼻だちが甘すぎて、
しまりのない顔に見えていました。巨大少女たちには、たまらない顔だちなのかもしれま
せん。真っ赤に白い頬を上気させていました。
 マリヤが、電車の床に肩膝を立てて、しゃがみこんでいました。ぼくの目線の先に股間
が剥出しになっていました。恥ずかしそうな気ぶりも、見せませんでした。大きなバスタ
オルのような、子猫の刺繍の絵入りのハンカチーフで、彼の顔を拭ってやっていました。
 男は唇を、上下に、ばくばくさせていました。酸素不足の金魚のように、荒い呼吸をし
ていました。たくましく二つに割れた筋肉質の顎の先からも、雫が滴っていました。
 五分のスポーツ刈りにした髪が、自分とマリヤの汗で、びっしょりと頭蓋骨に張りつい
ていました。
「えらいわ。よく我慢したわね」
 マリヤが、髪を撫でるようにしてやっていました。黒く太い眉毛までが、水を浴びたよ
うに濡れていました。もしかすると、マリヤの分泌物で、汗だけではないのかもしれませ
んが……。
「いくよ、シロ」
 マリヤが、3メートル以上の長身で立ち上がっていました。彼の小さな手を大きな手の
なかに、すっぽりと握っていました。
 180センチ以上のヒップの背後に、男子生徒をペットの忠実な犬のように従えていき
ました。女子中学生達は、颯爽と大股で下りていきます。
 タカコは、その最後尾に続いていました。
 ぼくを振り向いて、一度だけ軽く会釈していってくれました。口元に、オレンジのよう
に明るい笑みを、にっこりと浮かべていました。
 ぼくは、172センチの形の良いCカップの胸に、片手を上げて、指先だけを振ってい
ました。さよならをしていました。
 男子だけの、私立中学校に通学するぼくには、まだ電車の地獄への旅が続くのでした。
 疲れていたぼくは、ようやく空いた座席の一つに座りました。すぐに反省していました。
そこは先客の少女の汗で、べっとりと湿っていました。男子ならば、小便を洩らしたよう
な量でした。ぼくのズボンの布地を透かして、じっとりとパンツまで、染みてきていまし
た。もう立ち上がる気力も、ありませんでした。
 目蓋の裏に、タカコのパンティの画像をしわひとつにいたるまで、克明に再現していま
した。

帝国スポーツ新聞 22XX年XX月XX日の記事より抜粋

 XX線XX駅のデパートのゴミ捨て場で、女性用の大きな「燃えるゴミ」の袋の中から、
少年A君(中学二年生・14歳)が、全裸で発見された。三日前の朝に学校に行くといっ
て家を出てから、登校もせずに行方不明になっていた。安否が心配されていた。
 警察の発表によると、衰弱して全身に打撲の後があったが、命に別状はないという。少
年Aは、ビニール袋の中に、百枚以上の、色もデザインも様々な女性用下着の海に、埋没
して溺れているような状況だったという。すべて、使用済みだったという。下着に付着し
ていた体液のDNA鑑定から、個々別々の持ち主のものであったことが、確認されている。
ただし、ビニール袋に、呼吸用の穴が多数開けられていたことや、学校に不審な通報があ
ったことなどから、殺害の意図はなく、大がかりだが、いたずらの一つだと見られている。
 少年Aは、最近、インターネットの自分のホームページに、多数の女性下着を克明にC
Gで描写した、わいせつな画像を発表していた。彼の口の中にまで、何枚もの使用済みの
パンティや、生理用のナプキンなどが詰め込まれていたことなどから、恨みによる犯行と
して、関係者から事情聴取がなされている。多発する少女の性的な犯罪の一つとして、専
門家は次のようなコメントを……。



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