新・第三次性徴世界シリーズ・3
夏の妹の巻
笛地静恵
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 妹の大海瑛子(おおうみえいこ)が、ぼくの部屋にやってきた。
 水着を買いに、ショッピングに行く前の晩のことだった。夏休みをとるために、ぼくが
中国から帰国して、すぐのことだった。
 家族で、海外旅行に出掛ける準備だった。
 DKNY/USAのベージュのTシャツを、一枚だけ湯上がりの素肌に、着ただけだっ
た。袖丈も、半袖以下にカットされていた。自分で鋏で切ったのだろう。ジーンズも、太
腿の付け根のぎりぎりまでのカットソーだった。ワイルドな雰囲気を演出していた。
 軽装だった。ブラジャーは付けていないことが、胸の先端で自己を主張している、小鳥
の嘴のような乳首の形でわかった。
 湯上がりの妹は、その格好でわざと胸を反らせたのだった。ぼくは、机の前の椅子に腰
掛けていたので、胸が眼前にむにゅうと、迫り出していた。
 91センチの巨乳の球体が、くっきりと強調されていた。素肌よりも艶めかしかった。
巨乳を自慢しているのは、明らかだった。
「この頃、また大きくなっちゃって……、胸が痛いの」
 そう、愚痴をこぼしていた。サイズが分からない。
「計って」
 頼みに来たのだ。
「それぐらい、自分でできるだろう」
 断ろうとした。
「光一って、最近、妙に、ぼくに、冷たくない?」
 ぷんと、頬を膨らましていた。
 妹は、ぼくの影響もあって、小さな頃から、一人称に、「ぼく」を使っていた。小さな女
の子の口から発せられると、それが妙に可愛らしかった。愛しかった。
 昔は、よく弟になりたいと言っていたのだ。スカートよりも、ズボンを好んでいた。
 小学校四年生ぐらいから、胸の膨らみが明らかになってきていた。もう少年とは思われ
なくなっていた。
 性徴のしるしは、歴然としていた。そのころは、さびしそうにしていた。
 女の子としてのしるしを見てからは、さすがに女性であることを、意識せざるを得なく
なっていたようだった。
 去年のクリスマスから、半年以上離れていた。
 今年、初めて見る妹は、急速に大人びていた。美しく開花していた。蛹は蝶になったの
だ。これから、さらに大きな第三次性徴の変化が待っているが……。
 ここまでの変身にも、どぎまぎしていた。どう、接したらよいのか、分からなかったの
だ。
 しかし、思い直した。もうすぐに、妹が第三次性徴期に入ることは明白だった。こんな
遊びが出来るのも、この夏だけだった。
 それで、明日のショッピングに付き合うことも、承諾していたのだった。
 椅子から立ち上がった。
 妙な違和感があった。
 妹のやや釣り上がった瞳に、見下ろされているような気がしたのだ。
 彼女は、そ知らぬ顔をしている。くびれた腰に両手を当てていた。
 天井のあらぬ方角を見ていた。口笛でも吹きそうな様子だった。
 妹の足元を見下ろした。素足だった。足の爪が可愛らしかった。スリッパなどは履いて
いなかった。。
 瑛子の魂胆は分かった。自分の身長が伸びたことをぼくに、アピールに来たのだった。
「おまえ、何センチになった?」
 そう聞いて欲しかったのだろう。
「166よ」
 鼻歌を歌いたいような、明るい口調だった。
「大きくなったなあ!」
 そう誉めてやった。
「大きくなったでしょ」
 妹は、くびれた腰に両手を当てて、左右に軽快に腰を回転するようにしていた。
 顔が明るく光るようだった。
「半年で、6センチのびたんだよ。ついに、お兄ちゃんを越えたね!」
 昨年のクリスマスの時は小学五年生だった。160センチだと言っていた。その時も、
ドレスにヒールの高い靴をはくと、大人びて見えていた。明らかにぼくを越えていた。
 まもなく、追い越されるとは覚悟していた。
「アニキ、小さくなったわねえ!」
 しかし、そう面とむかって言われるとショックだった。いつかは、この日がくると分か
っていてもだ。
 166センチメートルの妹は、最近の12歳の小学校六年生の女子としては、普通の体
格だった。
 特に目立って大柄ではない。
 自分よりも大きな子が、クラスにざらにいるのだから、小さいというのは、正直な感想
なのだろう。
 このたった4センチメートルだけの相違が、結構、大きかった。
 妹の兄に対する態度を、微妙に、しかし、決定的に変化させていた。心身ともに、見下
ろされているのが分かった。自分が、卑屈になるのがわかった。
 中国への留学が、決まった時には、泣いて騒いでいた。自分を捨てていくといって、一
週間というもの、一回も口を聞いてくれなかったこともある。小学校四年生の時だった。
 それまでは、ぼくにくっついている、お兄ちゃん子だったのだ。幼稚園の頃には、ぼく
と結婚するとまで言っていた。
「胸も大きくなったのよ。光一。触ってみる?」
 妹の瑛子は、気が付くと、ぼくのことを名前だけで呼んでいた。身長で、追い付いたか
らだろうか。
 光一にいちゃんと、訪中するぼくを、空港で泣いて縋ってきたフリルのスカートの少女
の頃とは、根本的に態度が変わっていた。
 対等の存在に、なっていたのだった。
 ぼくが何も手を出さずに、突っ立っているからだろう。瑛子は自分から、両方の胸を手
に持っていた。持ち上げるようにしてみせた。
 ぼくは、妹のあからさまな誘いに、頬を赤らめていた。
「いちばん胸の高さが高くなる、アッパーバストをまず計るのよ。それからアンダーバス
トね」
 妹が、長い両腕を高く頭の上に伸ばした。腋の下の汗の香がぷんとした。瑛子自身は、
無意識のようだった。
 メジャーをしごいて延ばすと、気を取り直して彼女の前に立った。
 身長162センチメートルのぼくは、成人男子の平均が、165センチぐらいだったか
ら、十九歳としては、やや小柄な方だった。
 もう身長が伸びることはあるまい。
 豊満な肉体が、大学生の男としての、ぼくに与えている影響を、知悉していた。
 無理もない。妹は、第三次性徴期直前だった。男性への興味と関心が、異常に高まる時
期だった。瑛子だけが、ニンフォマニアではないのだ。ホルモンのいたずらだった。
 日常の生活をしていても、視線が明らかにぼくよりも、高くなっていた。
 体重は秘密だったが、48キログラムのぼくを、もしかすると追い越していたのかもし
れなかった。ほとんど同じような体格に思えた。
「そうそう、光一。じょうずよ」
 ぷるんと胸を揺らした。ぼくの感情をもて玩ぶことに、子どもらしい、喜びを感じてい
たようだ。
 翌日は、第二次性徴期の少女のための華やかな色とりどりの水着売場を、五件はしごさ
せられていた。少女たちの突き刺すような視線が、恥ずかしかった。
 試着している間、妹の他の色鮮やかな水着を、手に持たされていた。
 デパートで、十着の新作の水着を購入した。
 十日間を、南の島のプライベート・ビーチのあるリゾートで、過ごす。一日一枚として、
それぐらいは優に必要だというのだった。彼女の持論だった。
 去年のものは、すべてサイズが合わなくなっているというのだから仕方がなかった。

                 *

 南の島のリゾートで、父母と妹とぼくの家族四人で、十日間を過ごした。
 この休暇中にも、彼女のビキニの放恣な姿態を毎日、たっぷりと鑑賞させられいた。
 微細に観察していた。
 妹は、ビキニの水着の展示会場のようだった。
 豹柄。白。黒。ピンク。
 サーフィンの時は、白と藍色のストライプだった。ストライプが、妹の曲線を強調して
いた。すごいプロポーションだった。官能的だった。
 つまり、男ならば、夜の夢に思い出して、だれもがおかずにしたいような肉体だった。
 妹も、ぼくと同じでスポーツは得意だった。運動神経が良かった。たいていの種目は、
すぐにコツを身につけた。マスターしていった。
 島のまわりで、サーフィンに好適なスポットを、自分で探して見付けては、ぼくにも得
意そうに教えてくれていた。
 そんな時は、DKNYのベージュのTシャツを、上半身に着ていた。
 スキューバ・ダイビングの日は、シンプルな水色のビキニだった。海中に同色の水着は、
溶けてしまったようだった。
 全裸の人魚のような女の身体が、青い水中を、くねりながら泳いでいた。
 遠泳をしてきた後で、食い込んだ水色のビキニの下の位置を、布地に指を入れて直して
いた。
 砂浜では肩を焼かないように、青いTシャツを肩にはおっていた。
 ふとしたしぐさにも、胸をときめかせていた。
 砂浜で肌を焼きたい時は、ピンクの花びらのようなフリルのついた可愛いビキニだった。
背中から腰へ、日焼け止めのローションを塗ってくれるように頼まれた。掌にとって、と
ろりとした油のような液体を、滑らかな皮膚に塗っていった。
 妹の肌は、燃えるように熱かった。
 くすぐったいと、ぼくの方を振り向いて、のどちんこが見えるほどに、大口を開けて、
無心に笑っていた。笑うと、妹の顔は、ぎゃははははっと子どものように崩れた。細い目
が釣り上がって、肉付きの良い頬に皺が走った。
 妹の瑛子の口の中の赤さに、心が震えた。
 バンガローで、うとうとと、まどろんでいることもあった。成長のためには、睡眠が必
要のようだった。寝る子は育つというやつである。
 ロッキングチェアーの上にいるときも、下は黒のハイレグのビキニだった。下は、白地
に青い豹柄を散らしたような、ノースリーブのシャツを着ていた。 無防備な肉体が、ぼ
くの目の前に、おいしそうな不思議の国の料理のように横たわっていた。「eat me!」
という札が付いているのが見えるようだった。

 夏の妹は、あまりにも、官能的な存在だった。波と塩に揉まれた密度の高い髪は、体格
の割りには小さな顔を、黒く獰猛に縁取っていた。
 少女以上、女未満というところだったのだ。氷細工のように繊細な今だけの美なのだ。
明日は溶けて、水になってしまうのだ。
 そこに、異様な小悪魔的な魅力があった。
 茶髪ではないが、陽光の角度では、飴色に透けていた。
 眉は濃くて、くっきりとしていた。彼女の意志の強さを、書の名人の一筆書きのように、
簡単明瞭に表現していた。二重目蓋と同じように、兄のぼくとも似ているところだった。
母がそうなので、遺伝的に優勢な形質なのだろう。
 瞳は黒目勝ちだった。白目に異様な光があった。
 ここ十日間というもの、ぼくを見つめる目は、妹の瞳は欲望を湛えていた。炎天下にお
かれた、鏡のように熱かった。兄には、そのメッセージははっきりと伝わっていた。ぼく
にも、同じ感情があったからだ。
 妹の鼻の頭に、特に強く光があたっていた。唇は、誘うように潤んでいた。上の唇が、
小鳥の嘴のように中央が、つんととんがっているのが、彼女のチャーム・ポイントだった。
 朝露を受けて、今にも、花を開こうとしている、花びらのように可憐だった。
 今年は、豹柄が流行していた。妹の選択ももそれにならっていた。原始の野性的な乙女
という感じを強めていた。
 彼女のバストは、91。ウェストは59。ヒップは87だった。
 メジャーで直接に計らせたのだからよく分かっている。。

 豹柄のビキニの上は、妹の91センチのバストを丸く包んでいた。胸の谷間の紐が、は
ちきれそうに張り切っていた。この柄も、肩紐のあるタイプと、ないものの二種類を買っ
ていた。ぼくが、肩紐のあるタイプの方が似合うといったのだった。肩からぶら下げた方
が、乳房の重量が分散されるので、少しでも楽かと思っていたのだった。


 十日間の楽しい休暇は、あっという間に、過ぎ去っていた。
 明日は、プロペラ飛行機が、島で唯一のジャングルを切り開いた飛行場に付く。
 それで、まずこの諸島の本島に、帰らなければならない。
 そこのホテルに一泊してから、ぼくは単身、北京の大学に戻るのだった。妹と家族は、
日本に帰る。
 妹とも、おそらく生身で会えるのは、来年の、この夏季休暇の時期まで待たなくてはな
らなかった。クリスマス休暇には、ヨーロッパの学会に出る予定だった。
 十日間、ずっと、何かをしなくてはと、焦っていた。それは、記念に残るものでなけれ
ばならなかった。
 良い思い出として、妹の胸に止まってくれるものでなければならなかった。しかし、き
っかけが掴めなかった。
 その結果が、この決断だった。自分の妹への気持ちが、もうのっぴきならない、限界の
ところにまで来ていることは分かっていた。
 ぼくは、島の反対側の入江の中のビーチに誘った。サーフィンの良い波の来るスポット
を、見付けたというのが口実だった。


 夏の海辺の陽光が眩しい。岩陰だった。プライベートなビーチである。貸切で、この島
には、ぼくたち家族しかいない。
 沖合はるかに、漁をしている、半分以上が、観光用の点景としての原住民の丸木舟があ
るだけだった。
 ほかには、魚を探して飛び交う、海鳥以外は、何の視線もなかった。

 八月の美少女の身体は、たわわに熟した熱帯の果実のように、甘く重く匂っていた。
 ぼくは、ビキニの身体を、抱き締めていた。抱いて初めて、その重みがわかった。
 乳房の弾力がぼくを、拒否するように、押し返そうとしていた。それを、腕に力を入れ
て抱き締めると、ぼくの裸の胸で二つの乳房が、変形して扁平になっていった。
 妹は、一瞬だけ、突き刺すような瞳をぼくにむけた。が、すぐに笑みが戻っていた。
 長い両腕を、ぼくの肩にすらりと回してきた。
 ぼくの薄い肩に置かれた、少女の肉付きの良い両腕が重かった。
 瑛子という女の命の、重みのような気がした。
 色白の彼女も、真上からの夏の太陽の陽に焼けていた。鼻の頭と頬が、赤くなっていた。
汗腺から、汗が吹き出していた。燃える女だと自分で言っていた。
 上唇の上に、小さな玉になって光っていた。むかって左の目の上に、前髪が回転する渦
のようになって、かかっていた。
 少女は大きな黒い瞳で、ぼくをじっと見つめていた。小さくぼくの顔が映っていた。
 恥ずかしかった。
 もし、そのまま瞳を開いてくれていたら、その後の行為を、思い止まっていたかもしれ
なかった。
 しかし、瞳の表面の鏡は、閉じてしまっていた。
 それに力を得ていた。
 少女の波に洗われても、血色の良い赤い唇の上に、自分の唇を押しつけていった。
 それは、次第に荒々しいものになっていった。
 ぼくのフォースト・キスの相手は、妹だった。妹も同様だと信じたかった。かなり男性
経験があるような気がした。
 正直に断っておきたい。母と子や兄と妹の、親愛の情によるものではない。ぼくは、肉
欲にかられて妹の唇を奪ったのだった。
 震える右手で、ビキニの上から胸を押さえていた。ぼくの片手には、余るような肉の量
だった。
 妹は、拒まなかった。
 ぼくの短い指を、自分の長い指で摘むようにして、導いていた。掌を重ねた。さらに強
く握らせていった。
 リズムがついていた。
 彼女の手の力に呼応するように、強弱をつけて揉んでいた。
 妹の唇から、ため息と喘ぎ声が零れていた。

                 *

 キスという形で、ぼくは解答を出したのだった。これが誤答でないことを、祈るしかな
かった。後戻りはできなかった。
 自分が誰よりも、妹を愛してしまっていることが、この十日間でよく分かっていた。
 禁断の道であることぐらい分かっている。もうすぐ成人式だった。ぼくは。子どもでは
なかった。
 十九歳の男の決断だった。
 ぼくは、妹の奥深い口の中を、縦横無尽に、舌で犯していた。唾液を注ぎこんでいた。
 妹は、喉をごくりと鳴らして、大胆に飲んでくれていた。
 妹の熱い下腹部に当たる、自分の海水パンツの中の固くなった肉棒の存在を、痛い程に
感じていた。
 サポーターの束縛を、ものともせずに、それは猛り立っていた。
 瑛子にも、わかったのだろう。
 彼女の豹柄のビキニの上から剥出しの筋肉質の腹が、それをごりごりと押すように動い
ていた。
 ビキニの腰全体が、悶えるように踊っていた。
 何というのだろう。彼女はウエストに、細い飾りのチェーンを巻いていた。小さな黒い
玉がついていた。
 それは、妹の健康な臍の穴に、すっぽりと填まっていた。
 その玉がこりこりと亀頭の裏を刺激していた。
 波が、二人の足元で砕けて、白いしぶきを上げていた。
 その瞬間に、耐えきれなくなったぼくは、精液を、海水パンツの内部に射出していた。
 第三次性徴直前の、12歳で、166センチメートルの妹は、19歳で162センチメ
ートルのぼくには、すでに、ずいぶん長身に思えた。
 二人が抱擁を解くまでに、さらに長い時間が流れた。
 肉棒をとろりと流れ下る、精液の蜜のような感触を覚えていた。虚脱したような時間が
流れた。妹は、動かずに、そのままじっとぼくを抱いてくれていた。男の生理の反応が分
かっているのだ。
 海水で、洗い流そうと思った。
 妹の手を引いて波の中に入った。波の強い力に身体を押し上げられながら、ぼくたちは、
もっと熱烈な愛撫を交換した。
 半裸の妹と、全裸のぼくは、ぶつかるように抱き合っていた。
 青い波の、慈悲深いヴェールが、ぼくたちの罪深い行為を、陽光から隠してくれていた。
 いつのまにか、妹のビキニの上も、流れてなくなっていた。激しい行為に、それまでに
も限界まで、巨乳の重量に酷使されていた布地が疲れて、細い紐が切れたのだろうか。
 それとも、妹が自分で背中のホックを、外したのかもしれなかった。
 彼女の性格の激しさは、よく分かっていた。
 ぼくは、海水パンツを脱いでいた。
 海水の中で全裸になっていた。
 妹の手に肉棒を握らせていた。彼女は、拒まなかった。上下に扱いてくれていた。雁首
の下で、指の力を加減してくれていた。
 男の生理を知っている女の忠実な行為だった。

                 *

                  *

 妹は、砂浜のバスケットのところにもどった。
 紐のない豹柄の上を胸につけた。
 ぼくは、海の中からフルチンであがった。小さく縮こまっていた。手を当てて股間を隠
していた。蟹股になっていた。
 妹に、おかしいと笑われてしまった。
 瑛子の、ボクサータイプの、白いビキニの下を借りた。真っ白で、腰の所に黒い線が、
太いのと細いのと二本入っているだけの、シンプルなものだった。 小さいかと心配した
が、むしろゆったりとしていた。
 ウエストの紐をきつく絞める必要があった。女の子の方が、お尻は大きいのだというこ
とが、妙に実感できた。
 不審に思われたら、岩の上に乾かしておいた水着を、波にさらわれたと説明しようと、
口裏を合わせておいた。
 妹は、アイスボックスから、冷たいスポーツ飲料を出して、飲んでいた。透明な液体が、
胸の谷間を流れ落ちていた。

                 *

 しばらくしてから、二人で、バンガローに近い砂浜に戻った。
 瑛子は、波打ち際を歩いていた。足跡を濡れた砂に刻み付けるように、歩いていた。さ
くりさくりと、砂の上に、細長くて形の良い足跡が残されていった。それも、波に洗われ
て消されていくのだ。
 後を振り返ることはしなかった。
 砂浜に打ち上げられた鯨のように、ママの巨大なビキニの姿が、どでんと横たわってい
た。その背中に、パパがよじ登って、広大な背中に汗だくになって、日焼け止めのローシ
ョンを塗っていた。
 自分と、瑛子の未来を見せられたような気がした。
 成人の女性は、成人の男性の三倍はある。見上げるような巨体となる。ママも立ち上が
ると、物凄かった。
 瑛子は美しい目を伏せていた。まつげの影が、頬に落ちていた。物思いに、耽っている
ようだった。

 ママは、大海設計事務所を経営していた。二年越しの大仕事が完成して、長い休暇を取
れることになった。それを、海外の南の島で過ごそうというのは、瑛子のリクエストに答
えたのだった。
 第三次性徴世界になって、女性の巨大な体格に合う建築の需要が、増大していた。巨大
隕石ガイアの地球衝突によって、壊滅した「旧世界」の市街地の復興も、日本全体として
は、まだ30パーセント程度しか、手がついていない状況だった。もっとも活況を呈して
いる業界だった。ママは、その中の花形設計士だった。
 ノイエ・シブヤにある、有名なビルのいくつかも、ママの設計である。女性にも男性に
も、住心地のよい居住空間を求めていた。ただ仕事が多忙で、ほとんど家にいない。「生殖
センター」から退院してきた瑛子の世話は、生後一週間から、授乳も襁褓の交換も、ほと
んどが、ぼくとパパでしてきたのだった。お襁褓を取られて、気持ちがさっぱりとした瑛
子は、ぼくの顔にオシッコを噴水のように、元気良く吹き掛けたのだった。

 その赤ちゃんが、いまや、ぼくと並んで歩いている、美女に成長したのだった。感無量
だった。パパもそうなのだろう。ときどき、瑛子の方を、眩しそうな目で見ていることか
ら、分かるのだ。
 パパは、ママに食わしてもらっている。この時代のほとんどの男性と同じで、専業主夫
だった。料理の名人である。発想の豊かさと、それを味にする繊細な技術を持っていた。
エプロン姿が、良く似合った。島での三食のほとんども、パパの手になるものだった。新
しい魚や果物という食材に、腕を揮っていた。
 バンガローは、半分海の中に建てられていた。波が、基礎となる材木を洗っていた。
 ここまで、瑛子が健康に育ったのには、パパの努力が、大きかったと思う。
 暇があると、アトリエで絵を書いていた。それほど売れないが、有名な日本画家でもあ
った。美人画の伝統を、二十二世紀に再現したと、美術の専門家には評価されているらし
い。装飾的な美しい画面に、きりっとした顔立ちの美人が描かれていることが多かった。
絵のことは良く分からないが、ぼくには、ママに似ていると思われた。この頃は、瑛子に
も似ている気がする。
 パパによれば、心の中の理想的な女性像を、描いているだけだということだった。
 ママの設計したビルには、かならずどこかの壁面に、パパの絵が飾ってある。二千号以
上の大作ばかりだった。アトリエでは、足場を組んで描いている。工事現場に似ていた。
ジーンズのニッカーボッカーの全身が、塗料まみれだった。
 それなりに、夫婦での共同作業をしているのだった。
 ただ、ぼくには、瑛子の誕生日に描かれている十一枚の「瑛子連作」と名付けられた作
品群が、ことに印象深かった。パパの深い娘への愛情が感じられたからだ。十二枚目は、
この島で描かれることになっていたが未完成で、下書きのスケッチが出来ているだけだっ
た。ビキニ姿になるだろう。ヌードという話もあったが、パパにさえ妹の裸を見られるの
は、嫌だった。安心していた。

                 *

 食事の時間も、ムームーのママの胸元は、赤い山のようだった。鋭い目で、ぼくたち二
人を、その上から観察するように見下ろしていた。
 ぼくの部屋で、明日の行動計画を練った。妹は、透け透けの刺繍の入った純白のシルク
のブラウスを、部屋着としていた。身体の線に密着していた。女らしいラインを、美しく
強調していた。陽に焼けた肌との対象が鮮烈だった。お休みのキスだけをして、彼女は自
分の部屋に帰っていってしまった。明日の帰宅の衣類をまとめるのに、時間がかかるので
忙しいということだった。
 ぼくの寝入り端に、バンガロー全体が、地震のように鳴動した。飛び起きてしまった。
夜の底で怪獣が咆哮していた。しかし、すぐに、パパがママを愛してやっているのだと、
気が付いた。眠れなくなっていた。
 砂浜に出て、月の海を見ていた。静かだった。背中から抱き締められていた。妹の熱い
胸を感じた。
「眠れないの」
 そう呟いていた。ママのいない夜を、何度こうして二人だけで、過ごしたことだろうか。
パパも、絵画のための取材旅行で、家を不在にすることが何回もあった。
 二人で、細かな白い砂の上に座った。波は穏やかだった。月光をきらきらと、砂金のよ
うに波の上に撒き散らしていた。光が滲んでいるので、自分が泣いているのがわかった。
なにが、これほどに悲しいのか、わからなかった。
 女心と秋の空というのは、この時代になっても、変わらぬ真理だった。変化しやすいの
だ。気が付くと、妹も、泣いていた。
「……だめだよ。ぼく、もうすぐ、第三次性徴期に入ってしまうもの。お兄ちゃんにとっ
ては、怪物のように大きくなるんだ。ぼく、大きくなりたくないよ。でも、だめなんだ。
この身体の中のホルモンが、大きくなれって命令している。その声が聞こえるんだ。こう
して、似合いの恋人でいられるのは、今年の夏だけだよ。だから、お兄ちゃんのすべてが、
知りたいんだ。今の、瑛子のすべてを知っておいてもらいたいんだ」
 ガイア隕石は、六十億人の人類同胞の内、五十億人の命を奪っていた。第三次性徴もあ
って、人類は「旧世界」の秩序と繁栄を、取り戻せないでいる。
 しかし、ともあれ、自然にとっては、ガイアは優しかったのだ。文明に汚染されていな
い、太古の海の姿がここにあった。
 ママの命の声を、霧笛のように聞きながら、ぼくは瑛子にキスをしていった。砂の上に
押し倒した。抵抗はしたが、ぼくの腕力の敵ではなかった。本気であったかも疑わしい。
体重を乗せていった。妹は、重いとは言わなかった。ずっしりとした密度感のある肉体だ
った。最初は、ぼくの全身への情熱的なキスがくすぐったらしい。乾いた声で笑っていた。
「お兄ちゃん。くすぐったいよオン」
 鼻声になっていた。それは、やがて湿った喜びの声に変化していった。
「ぼく、なんか、変だよ。変だよ」
 妹の肉布団は、柔らかかった。ぼくは、胸の深い谷間に、顔を埋没させていった。透明
な液体のたまった泉から、汗のしずくを飲んでいた。海の味がした。
「あああん。だめ!」
 妹は、ぼくを全力で抱き締めてきた。骨が軋むような怪力だった。宙に浮かび上がって、
どこかに飛んでいってしまいそうな肉体を、かろうじて、ぼくという繋留の杭によって、
地上につなぎ止めているという必死さがあった。
 しかし、瑛子の抵抗も、やんでいた。彼女は、長い間、虹の世界を漂っていた。
 そこから帰還した妹は、ぼくに以前よりも何倍も熱烈なキスをしてきた。「好き」と呟い
ていた。新しい世界を体験して来たのだった。ぼくは、妹の早熟が耳学問であることが分
かって嬉しかった。彼女の肉体の瑞々しい線は、男をしらない処女であることを、明確に
日々に宣言していたのだ。それを、何を疑っていたのだろうか。馬鹿みたいだった。
「今度は、ぼくの番だよ」
 妹も積極的に責め立ててきた。何も、おくしていなかった。これは、瑛子の性格に根ざ
しているものだった。
「お兄ちゃん、気持ちいい?」
 妹は、ぼくの肉棒を上手に扱いていた。
「いいよ、出しても。男のひとって、出すと気持ちがいいんでしょ?」 
 やがて、白濁したぼくの命のミルクを、熱い掌で、すべて受け止めてくれていた。瑛子
が、それを貴重な薬のように、指の股のものまで舐めてくれているのを見た。月光に銀色
に光っていた。
 もう止まれなかった。
 処女のしるしがあった。厚い扉は、ぼくを拒んだが、力で侵入していった。妹は、痛が
って激しく拒んだ。上に逃げようともした。が、両腕の力で押さえ付けていった。感動し
ていた。
 瑛子は、ぼくのものだった。誰にも渡したくなかった。
 砂浜に、赤い花が一輪、咲いて散った。
 しかし、彼女は、すごい速度でぼくから去ろうとしている。身体の下に押さえこんでい
るのに、喪失感が消えなかった。
 なにくそ、と全力で腰を動かしていた。妹に兄の男の力を、示したかったのだろうか。
 何か巨大な相手と、必死に戦っているのだ。
 が、敵の姿が見えなかった。妹が敵であるはずもない。
 第三次成長世界、そのものなのだろうか。
 ぼくにも、恋人はいる。中国人の切れ長の瞳の美女で、第三次性徴が完了している。ぼ
くは例の電動式の人造ペニスを装着して、容積を何倍にもする。そうでないと、大海に棹
をさす状態で、彼女に快感を与えるのは無理だった。そうして、他のカップルと同じよう
に、SEXもしている。
 しかし、自然な状態のペニスで、自然な膣に挿入するのは、初めての体験だった。同じ
サイズの女の膣の筋肉が、これほど窮屈に締め付けてくれるとは思わなかった。
 膣は、灼熱していた。蜜の多い花の内部のようだった。
 ぼくは、夏の花の中で、蛹から蝶に孵化しようとしていた。
 花は、巨大に開花していく。
 妹の快感は、世界大に高まっていった。遠いバンガローの中にいるママと妹は、斉唱し
ていた。
 女たちの命の声だった。
新・第三次性徴世界シリーズ・3
夏の妹の巻
笛地静恵
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GIRL BEATS BOY